稼働率を「信頼」で変える|障害福祉通所サービスの収益構造と満足度(東京都)
目次
はじめに:「通いたい」が「安定収益」に変わる。本人・家族の満足度を最大化する稼働マネジメント
障害福祉事業の通所サービスを運営する経営者や事務担当者にとって、日々の「欠席」は単なる数字の変動ではありません。それは、報酬区分や人員配置基準が複雑に絡み合った「経営構造」そのものを揺るがす大きな課題です。
本記事では、正確な報酬算定の仕組みを紐解きながら、利用者や家族の満足度を高めることがいかに事業所の持続可能性に直結するかを解説します。
稼働率を「経営の根幹」と「信頼のバロメーター」として捉え直す
障害福祉サービスの収益は、国が定める「単位数」に「地域単価」を掛け合わせ、そこに「実稼働日数」を投じて算出されます。まずは、ご自身の事業所の区分に当てはめて、利用者率が経営に与える真のインパクトを可視化してみましょう。
正確な報酬算定に基づいた収益インパクトの試算
例えば、就労継続支援B型で「人員配置6:1(サービス費Ⅰ)、定員20人以下、平均工賃4.5万円以上」の区分(837単位)を持つ事業所を例に挙げます。
- 1人1日あたりの収益(地域単価10.9円の場合)
837 単位×10.9円= 9,123.3円
(※1円未満切り捨てにより 9,123円) - 1人あたりの月間理論収益(22日開所と想定した場合)
9,123円×22日=200,706円 - 月間収益(定員20名の事業所の場合)
- 利用者率100%(満員稼働)の場合
200,706円×20名=4,014,120円 - 利用者率95%の場合
3,813,414円(満員時より 約20万円減) - 利用者率75%の場合
3,010,590円(満員時より 約100万円減)
- 利用者率100%(満員稼働)の場合
利用者率が25%低下するだけで、月間約100万円、年間では「約1,200万円」もの収益差が生まれます。 配置基準が手厚い(単位数が高い)区分を選択している事業所ほど、わずかな欠席の積み重ねが、スタッフの雇用維持や工賃の支払原資を圧迫する大きな経営リスクとなります。
「前年度実績」が翌年度を決定づける報酬制度の構造
就労B型は通所型サービスであり、「前年度の平均利用者数」によって基本報酬の区分(定員超過減算の判定や、特定区分の維持)が決定されます。
日々の欠席を「個人の体調不良だから仕方ない」と放置することは、単なる当月の減収にとどまりません。平均利用者数が規定を下回れば、翌年度1年間の事業全体の「単価」そのものが下落するという、深刻な経営的ダメージを招くことになります。
そのため、利用率の向上のための施策を打つ必要性があります。
満足度と収益を支える「支援計画」の戦略的運用
数字を改善するためには、現場の「支援の質の向上」による定着率アップが不可欠です。利用者である障害者に無理にサービス利用を促すことは、障害者の意思を軽んじることとなりますので、却ってサービスの意義や利用者の足が遠のく原因となります。その大前提を踏まえ、経営と支援の質を両立させるために以下の対処が有効です。
個別支援計画の「動的な更新」がもたらすサービス向上
利用者率を安定させる鍵は、個別支援計画を「単なる書類」にせず、利用者の気持ちも入った生きた指針として更新し続けることにあります。
支援計画を引き直し、定期的なモニタリングを通じて「今の利用者が何に悩み、何を求めているのか」という本音を吸い上げる、そのプロセス自体が、利用者のニーズや満足度を把握する最も有効な手段となります。制度上、定期的なモニタリングは必要な対応ですが、ただ形式化されている実態がある場合は、その取り組み方が適切かどうか少し立ち止まって検討をしてみましょう。
支援計画を策定する担当者が障害者の欲求に基づき、サービス内容を柔軟に調整することで、「ここなら自分のペースで頑張れる」「また通いたい」という安心感が生まれ、結果としてサービスの質(QOL)と通所率が同時に向上していくのです。
離脱を防ぐための適切な加算活用
事務担当者は、利用者の状況に合わせた適切な加算の算定漏れを防ぎ、支援の継続を支える必要があります。
- 欠席時対応加算
急な欠席時、電話等で相談援助を行い記録に残すことで算定されます。「休んでいる間も、私たちはあなたを支えている」という姿勢を報酬として評価する仕組みです。 - 訪問支援特別加算
連続して欠席している利用者の居宅を訪問し、相談援助を行った場合に算定されます。通所が困難になっている根本原因を把握し、再開に向けた具体的なアプローチを行うための重要なステップです。
本人と家族の「安心」を最大化する他のサービスとの連携
通所を安定させるには、事業所内だけでなく、外部の専門家や家族など多角的な状況を分析し、必要あれば、他のサービスとの連携の視野に入れることも有効です。
短期入所(ショートステイ)との連携:家族のゆとりを創る
特に重度の障害がある場合、家族の介護疲弊も「本人の通所中断」の要因となり得ます。
家族に定期的なレスパイト(休息)を提供することで、家庭内での介護の限界点が押し上げられ、本人を取り巻く環境が安定し、通所を続けられる土壌が整います。
訪問看護ステーションとの連携:医療の安心を自宅に届ける
精神面や体調面で通所が途切れがちな方に対し、訪問看護による「自宅でのフォロー」を組み込むことも検討しましょう。適切なケアがなされることにより、本人の不安が軽減されるだけでなく、事業所スタッフも専門的な助言を得ることで、より適切な受け入れ体制を整えることができます。
結び:満足度の高い支援こそが、最強の経営戦略
「利用者率」を追うことは、利用者を無理に通わせることではありません。それは、「一人ひとりの利用者が、どれだけ安心してその場所を使い続けられているか」を問い直すプロセスです。
正確な単位数と地域単価に基づいた収支管理を行い、個別支援計画の更新を通じて本人の満足度を最優先に考える。その誠実な運営が、結果として安定した収益を生み、地域で最も信頼されるブランドへと事業所を成長させるのです。
