制度と現場のあいだで:障害福祉における虐待の「いま」を統計から考える

はじめに

こんにちは、クローバーです。障害福祉サービスにおける国の施策において、近年は「虐待防止」に焦点を当てたものが多くあります。具体的には、虐待防止加算や運営規程の整備や掲示による運営実務や体制強化による虐待防止、福祉従事者への研修強化などがあげられます。

また、2024年度の報酬改定により、虐待防止措置の未実施に対する減算が導入され、また今年度中に運営指導・監査の強化によりルールがより明瞭化されるなど、重点項目として調査される可能性が高まっています。

こうした背景を踏まえ、今回は厚生労働省の2023年(令和5年)の統計データをもとに、障害者虐待の実態を俯瞰してみることで、障害福祉の皆様の現場の状況と照らし合わせていただきたく、情報をお届けします。

統計データから見える虐待の特徴

虐待件数は増加傾向にある

厚生労働省の調査によると、2023年(令和5年度)の障害者虐待の通報・届出件数は全国で過去最多となりました。虐待の加害者として、養護者、福祉施設従事者、そして使用者(雇用主)を軸に調査を行っていますが、いずれの類型においても件数は増加しております。
以下表1は、厚生労働省の調査をもとにまとめた虐待件数の集計表です。 特に、障害福祉施設従事者による虐待の被虐待者数は、前年比74.3%増と急増しています。

令和5年 厚生労働省 障害者虐待の事例への対応状況(通報・相談件数)
厚生労働省 障害者虐待の事例への対応状況(通報・相談件数)https://www.mhlw.go.jp/content/12203000/001364028.pdf

虐待の内容は加害者の立場によって異なる

虐待の内容は、次のような特徴がありました。

  • 養護者・施設従事者による虐待では、身体的虐待と心理的虐待が中心。
  • 養護者による放置(ネグレクト)は1割を超え、深刻な支援不足が浮き彫りに。
  • 使用者による虐待では、経済的虐待が最多
厚生労働省 障害者虐待の事例への対応状況(虐待の行為類型)
厚生労働省 障害者虐待の事例への対応状況(虐待の行為類型)https://www.mhlw.go.jp/content/12203000/001364028.pdf

被虐待者・加害者の傾向

被虐待者・加害者の傾向は、養護者、施設従事者、使用者によりそれぞれ特徴がありました。

  • 養護者による虐待では、被虐待者の6割が女性、加害者の6割が男性
  • 一方、施設従事者による虐待では、被虐待者・加害者ともに7割が男性という傾向が見られました。
  • 使用者による虐待は、事業主が8割以上を占めていた。
厚生労働省 障害者虐待の事例への対応状況(虐待者・被虐待者の性別)
厚生労働省 障害者虐待の事例への対応状況(虐待者・被虐待者の性別)https://www.mhlw.go.jp/content/12203000/001364028.pdf
厚生労働省 障害者虐待の事例への対応状況(障害者虐待を行った使用者の内訳)
厚生労働省 障害者虐待の事例への対応状況(障害者虐待を行った使用者の内訳)https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/001298293.pdf

虐待を減らすために、今できること

それでは、虐待を減らすために、考えうる方策とは何でしょうか。福祉事業所と社会としての2つの側面から対策を考えることができます。

福祉事業所としての取り組み

通報義務の徹底

統計結果における通報件数の増加は、社会や現場の意識向上の表れでもあります。今後は、通報体制の整備と職員の理解促進が鍵となります。
また、通報者に不利益な処遇をすることは禁止されていますので、特に障害福祉事業所の経営者・管理者の皆様は、その点にも忘れずに管理業務を行ってください。

虐待防止委員会の運用強化

年1回以上の虐待防止委員会開催と、議事録作成や周知の徹底が求められます。好事例などの情報はインターネット等でもありますので、その事例情報を活用し、運営改善に努めましょう。

職員研修の強化

虐待防止として義務化されている研修も含め、虐待防止の効果のある研修を外部実施含めて受講していくことも効果的です。1人ひとりの職員が、障害や対処法への理解を深めることで虐待を防止することができます。
なお、東京都福祉保健財団による研修と、強度行動障害支援者養成研修の基礎研修に関して、今年度の募集は締め切られています。しかし、研修費用は無料(集合研修受講のための交通費やオンライン研修受講のための環境整備については、自己負担です)です。来年度の募集もあると思いますので、来年4月ごろに以下のホームページの情報をご確認いただくことをお勧めします。

社会としての視点

多様性社会の進展により、障害者の人権保護に対する社会的な感度は確実に高まっています。障害者福祉の関連法の改正や、インクルーシブ教育の推進など、制度面での変化も進んでいます。

しかし、制度だけでは虐待は防げません。「障害のある人も、ない人も、対等な市民である」という価値観を社会全体で共有することが、虐待の根本的な予防につながります。

おわりに:数字の向こうにある「声」を聴く

今回のデータは、あくまで「通報された」虐待の一部にすぎません。数字の背後に、まだ可視化されない実態も多く存在すると考えられます。

また、障害福祉の現場では、支援者の皆様自身が苦悩や葛藤を抱えながら日々の業務にあたっていることも忘れてはなりません。身体拘束や本人の意思に反する対応を迫られる場面もあり、そのたびに「これでよかったのか」と自問する支援者も少なくないでしょう。

そうした現場の努力や苦悩を無視し、「虐待=悪」と一面的に断じることは、むしろ、問題の本質を見誤る要因となります。
重要なのは、虐待の兆候を早期に発見し、組織として適切に対応できる体制を整え・維持することです。そして、支援者が孤立せず、職場で相談や改善に向けた対話ができる環境を築くことが、虐待を根本的に防止することとなります。
私たちは、現場で奮闘する皆様とともに、制度や仕組みの改善に取り組み、より良い支援のあり方を模索していきたいと考えています。

次回は、より実務に即した内容として「虐待防止マニュアル」の活用方法についてお届けします。現場での実践に役立つヒントをお伝えできればと思います。どうぞお楽しみに。

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