DBS不適合者の解雇・配置転換:不当解雇リスクを避ける人事措置と社労士連携

はじめに:不適格者判明=即時解雇ではない:専門家連携の必要性

日本版DBS法に基づき、子ども関連業務に従事する従業員に特定性犯罪歴が判明した場合、事業者はその従事を禁止する義務が生じます。
しかし、「犯罪事実確認書」が交付され、従業員が業務への不適合者と判断されたとしても、それは直ちに「即時解雇」を意味するわけではありません。解雇は憲法上の職業選択の自由や労働契約法により厳しく制限されており、不当解雇は高額な金銭的賠償や企業の信頼失墜という重大なリスクを招きます。

このようなデリケートな人事措置(配置転換や解雇)を検討する際は、行政書士がサポートする「DBS対応のための規程・体制整備」と並行し、社会保険労務士がサポートする「労働法に基づいた人事措置のための対策」という、二つの法的側面からのアプローチが不可欠となります。

本記事では、DBS法対応に必要な労働関係の課題や事前整備の重要性を解説します。また、具体的な人事措置に関しては社労士への相談の必要性を明確にします。認定をご検討の事業者の皆様は、給与計算等をもとに顧問契約をしている社労士の先生方に積極的に相談をしてみましょう。

DBS法施行に備えた「就業規則・労働契約」などの規程・文書の事前整備

不適合者が判明した際に法的リスクを最小限に抑えるには、従業員を採用する以前の段階から、DBS制度に対応した労働環境を整備しておく必要があります。

採用・選考時における規程整備の明確化

DBS制度の導入に伴い、就業規則や労働契約書に以下の事項を明確に規定することが急務となります。

  • DBS確認手続きへの同意義務
    従業員がDBS確認手続きに応じ、必要な情報提供を行う義務を明記すること。
  • 不適合時の措置規定
    DBS確認の結果、不適合とされた場合の配置転換、または解雇(やむを得ない場合)に関する措置の根拠を、就業規則の懲戒または解雇事由に定めること。

労働条件明示と雇入れ時の通知

新規採用時には、DBS確認が雇用継続の前提条件であること、および不適合時の人事措置の可能性を、労働契約法に基づき書面で明確に通知し、同意を得ておくことが重要です。これにより、後々の人事措置における法的整合性を担保する基盤を築きます。また、可能な限り、子どもと接触する業務を新規採用する際は、採用情報に事前に明記することも内定後のトラブルを回避することができるでしょう。

 基本原則は「配置転換」が第一選択肢

不適合者が判明した場合、労働契約を維持しつつ子どもの安全を守るというバランスをとるために、こども家庭庁では、「解雇の回避努力」の方策として、配置転換や業務範囲の限定を事例としてあげています。

雇用契約の維持と安全確保の両立

DBS法が定める従事制限は、子どもに接する業務に限られます。したがって、事業者はまず、その従業員を子どもと接触しない部署や業務への配置転換を検討し、実行することが、労働契約の維持という観点からも第一選択肢となります。

配置転換命令権は原則として就業規則に基づきますが、不適合時の配置転換は、子どもの安全確保という正当な目的を持つため、合理性が認められやすくなります。しかし、就業規則の変更には従業員の同意や周知などの適切な措置が必要となります。従業員にとって反発が生じる可能性もあるため、慎重に進める必要があります。

配置転換が不可能な場合の解雇回避努力

事業の規模や性質上、子どもと接触しない部署や代替業務がそもそも存在しない場合(例:小規模な学習塾など)でも、すぐに解雇するのではなく、解雇回避のための具体的な努力(他社への再就職支援など)を検討するのが賢明でしょう。なぜならば、DBS以外の事例においても事業者の解雇権の乱用は判例においても許されていないからです。そのため、どのような人事的措置を講じるべきかを社労士や弁護士とともに事前に整理しておく必要があります。

不適合者への「本人通知」や「弁明の機会」の重要性

配置転換や解雇といった人事上の不利益な措置を実施する場合、労働契約法に基づく厳格な手続きが必要です。

人事措置としての通知と聴聞

不適合とされた従業員に対し、なぜ、どのような人事措置を取るのかを明確に通知し、従業員の意向を丁寧に確認するなど、極めて慎重かつ丁寧な対応が求められます。
また、性暴力等の犯罪と疑わしき事実が発生した場合は、直ちに解雇などの懲戒処分をすることはできません。
初回かつ比較的軽微な場合は、まずは繰り返さないよう指導を行い、注意深く経過観察を行うなど、段階的な対応を行うことも考えられます。

  • 弁明の機会の重要性
    懲戒処分までの措置の公正性を確保し、従業員側からの不当解雇訴訟のリスクを低減するために、従業員に言い分を聞く機会を確保し、弁明の機会における聴取記録も残すようにしましょう。

具体的な人事措置は社会保険労務士へ相談

具体的な配置転換や解雇の実施、あるいは懲戒処分といった労働契約法に基づく人事措置の決定と手続きは、労働基準法や労働契約法、雇用保険法など社会保険労務士の専門とする領域です。

事業者が法的リスクを避けるためには、速やかに顧問の社会保険労務士に相談し、適切な手順と根拠に基づいた措置を講じることを強く推奨します。また、このような予防措置を十分に講じておくことで、従業員との訴訟を防止することができます。訴訟コストは多大な費用がかかります。そのため、必要な投資として躊躇なく日ごろから社会保険労務士に相談することをお勧めします。

まとめ:人事措置の法的整合性を行政書士と社労士が担保

DBS法対応において、行政書士は、事業認定の申請、情報管理規程の整備、および就業規則のDBS対応への変更といった法的基盤の整備をサポートします。

今回のDBS制度の運用開始にあたって、モデル就業規則も作成されましたが、それが現場に即しているかは別問題です。よって、不適合者が判明した後の「人事措置」については、事業者の状況を熟知している労働契約の専門家である社会保険労務士の関与が不可欠です。

事業者は、この二つの専門家(行政書士と社労士)の連携を活用し、子どもの安全確保(DBS法)と従業員の権利保護(労働契約法)という、二つの重要な法的義務を果たすための体制を整えるべきです。

適切な規程の整備と、適法な人事措置の実行は、企業の信頼を維持するための重要な投資となります。

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