日本版DBSの取扱記録の作り方|漏洩を防ぐ権限・廃棄ルールの実務マニュアル(東京都府中市)

はじめに

子どもに関わる事業所にとって、日本版DBS(こども対象性暴力防止法)の認定を受けることは、信頼の証となる一方で、極めて慎重な運用を求められる「劇薬」を扱うことでもあります。

特に、こども家庭庁から提供される「特定性暴力犯罪歴の有無」という情報は、個人の尊厳に関わる最上級の機微情報(センシティブデータ)です。万が一、この情報が漏洩したり、不適切な管理が行われたりした場合、事業所としての社会的信用を失うだけでなく、「認定の取消し」という事業継続に関わる致命的な事態を招きかねません。

今回は、行政の指導にも耐えうる「管理台帳」の設計と、安全な運用ルールについて具体的に解説します。

情報の取り扱いミスは認定取消しに直結する

日本版DBSの運用において、事業者が最も恐れるべきは、実は「犯罪歴があるスタッフを見つけること」そのものではなく、「確認した結果を不適切に扱ってしまうこと」です。

法律では、犯罪事実確認ができることの裏返しとして事業者に対して厳格な情報管理を義務付けています。情報の目的外利用や厳重な管理、情報の廃棄などを情報管理規程に定め、厳格な運用を求めています。そのため、実運用としては、誰が犯罪事実確認の有無を閲覧できるのか、情報管理をどのような手法(紙なのかデータなのか)、さらには不要になった情報の放置をどうするのか、などが日々の運用で気を付けることとなるでしょう。

そのため、認定を維持し続けるためには、「いつ、誰が、どのように情報を扱い、いつ捨てたか」を規程に定めると同時に、管理の実態を証明できる「管理台帳」の整備が不可欠となってきます。

アクセス権限の厳格化:誰が「確認結果」を見ることができるのか

「犯罪事実の有無」という情報は、社内であっても「誰でも見られる」状態にしてはいけません。閲覧権限(アクセス権限)を最小限に絞ることが、リスク管理の第一歩です。

管理責任者の限定

台帳を管理し、確認結果を閲覧できるのは、原則として経営者・人事責任者に限定することが最善策でしょう。

現場リーダーは対象外

例えば、教室の長や現場のリーダーであっても、採用決定や人員配置に関する最終判断に関わらないのであれば、具体的な「犯罪事実の有無」を知らせる必要はありません。人の口に戸は立てられません。迂闊に共有したことによって、噂などがたてば一瞬で広まります。そういったリスクを高めない為にも、犯罪事実の有無を知る方は最小限にするようにしましょう。

権限の明文化

誰に閲覧権限があるのかを情報管理規程で明確に定め、権限のないスタッフが誤ってアクセスできないよう物理的・システム的な措置(パスワード設定、のぞき込み防止、アクセス制限、鍵付き保管庫の設置、閲覧エリアのパーティション設置など)を講じてください。

「必要最小限」の共有ルール

子どもの安全を謳うDBS法においても、もし犯罪事実が判明したからといって、「ただちに解雇・配置転換できます」とは書かれていません。それは労働者の職業選択の自由に基づく権利も守られる権利と捉えているからです。そのため、スタッフ1人で子供と接しないような対応を初手では行い、犯罪リスクが高いと判断したら配置転換をするといった働く権利の尊重と子どもの安全確保という、非常に難しい判断を迫られます。

さらに、犯罪歴は個人情報保護法にて要配慮個人情報として慎重な管理を求められており、経営者は慎重な検討の結果、やむを得ず配置転換や懲戒処分を下す場合でも、関係者には「業務適性の判断結果、この業務には就けられない」と伝えるに留め、具体的な理由は伏せるのが鉄則です。

台帳の必須項目:ガイドラインが求める「3つの柱」

犯罪事実確認記録の取扱記録を管理する台帳は、単に「確認した」とメモするだけでは不十分です。ガイドライン案の趣旨を踏まえると、以下の項目を正確に記録し、管理することが求められます。

何を記録するのか:確認実施日や管理に関する情報

DBSの確認の取組記録には以下のような項目を記載することを求めています。

  • 確認日
    こども家庭庁から回答を得た日
  • 記録の作成・保管状況
    電子か紙か、取扱記録以外に犯罪事実確認書を保管する場合の保管方法
  • 記録の閲覧に関する情報
    取扱責任者の部署・氏名、アクセス権限を持つ者
  • 利用目的
    犯罪事実確認記録の作成目的
  • 廃棄・消去日
    制度上、廃棄(消去)が必要となるため、廃棄した時にそれをいつ実施したのか証明する記録

確認結果(犯罪事実の有無)

意外かもしれませんが、犯罪事実確認の取扱記録そのものに「犯罪事実の有無」を記入することは法律上求めていません。取扱記録自体が多くのスタッフの目に触れるリスクがあるため、結果の詳細は別管理とするのが個人情報保護の観点からだと推測されます。管理が不適切だった場合、DBS法だけでなく、個人情報保護法に基づく罰則を受ける可能性もあるため、取扱記録には、犯罪事実の有無は記載しないことを推奨します。

【注意:照会結果が「犯罪歴無し」でも油断は禁物】
DBSで確認できるのは、法で定められた期間内に、一定以上の刑が科された事実のみです。
よって、「犯罪歴無し」だからといってその人物が「完全無欠」であることを保証するものではありません。日頃から子どもへの接し方に疑問を感じた場合は、1人で対応させない、言動に変化がないか注視するなど、現場での細心の注意は常に必要です。

引用元:こども性暴力防止法施行ガイドライン(案)
特定性犯罪事実該当者であると認められる場合

対象者の基本情報と業務内容

法律では義務的記載事項ではありませんが、誰に対して、どのような業務(子どもに接する業務か否か)を根拠に確認を行ったのかを紐付けるのも整理がしやすいかもしれません。これにより、不当な目的で犯罪事実確認をしていないことを証明でき、行政による指導の際、「なぜこの人にDBS確認を行ったのか」という正当性を即座に説明できます。

廃棄のルール:退職後の保管期間と復元不可能な廃棄手順

「記録を残すこと」と同じくらい、「適切に捨てること」が法律上の義務として重くのしかかります。

保管期間の考え方

原則として、「対象者が子どもに接する業務に従事しなくなった時」または「退職した時」が、情報を保持する根拠が失われるタイミングです。

  • 退職・異動後の即時廃棄
    雇用関係の終了や、配置転換で子どもと接しなくなった際は、速やかに廃棄しましょう。「いつか再雇用・再配置するかも」と念のために残しておくことは、目的外保持と判断されるリスクとなります。

復元不可能な方法での廃棄

「ゴミ箱に捨てる」「ファイルを削除する」だけでは不十分です。

  • 紙媒体の場合
    シュレッダー裁断(クロスカット等)または専門業者による溶解処理。
  • データの場合
    単なる削除ではなく、専用ソフトを用いた上書き消去や、ストレージの物理的破壊など、復元できない措置を講じることが推奨されます。
  • 廃棄の記録
    廃棄した際も「いつ、誰の情報を、どのような方法で廃棄したか」を台帳に記録し、最後まで責任を持って管理した証拠を残しましょう。

結び:「適切に捨てること」まで油断しない事が重要

日本版DBSの運用は、事務担当者にとって「情報の重み」との戦いです。

管理台帳を正しく運用することは、スタッフのプライバシーを守るだけでなく、事業所という組織全体を「情報漏洩による信頼の失墜」という巨大なリスクから守る防波堤になります。

マーケティングの観点からも、「当社は厳格な規程に基づき、情報をアクセス制限と確実な廃棄フローで管理しています」と、プライバシーポリシーの具現化として反映させることで、スタッフや保護者からの信頼はより一層強固なものになるでしょう。

適切な管理と廃棄。このサイクルを組織の文化として根付かせていきましょう。

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