塾・習い事の日本版DBSの制度、うちは「義務」?「任意」?判断基準の盲点から実務Q&Aまで行政書士が解説

目次

はじめに:「義務化」と聞いて、慌てる前に確認してほしいこと

「こども性暴力防止法が施行される」というニュースが流れて以降、問い合わせの内容が変わりました。「うちも対象ですか?何かしなければいけませんか?」という不安ベースの問い合わせが増えています。

その不安の多くは、「義務」と「任意(認定)」の区別が曖昧なまま情報が広がっているために起きています。まずそこを整理します。また、義務か任意(認定)かの判断以上に「うちの事業形態は本当に対象なのか」という線引きで迷う事業者も多くいらっしゃいます。この記事では、その盲点になりやすいポイントも含めて丁寧に解説します。

「義務」と「任意」、あなたの事業はどちら?

法律上の「義務化」対象となる事業者

「こども性暴力防止法」に基づき、日本版DBS制度の運用が直接義務付けられるのは以下の事業者です。

  1. 学校設置者:幼稚園、小学校、中学校、高等学校など
  2. 認定こども園、保育所、児童養護施設、児童発達支援や放課後等デイサービスなどの児童福祉施設の設置者

これらの事業者は、施行後、教員や保育従事者を採用・配置する際に性犯罪歴の確認と安全確保措置の実施が義務となります。

民間事業者は「任意の認定制度」—ただし盲点がある

一般的な学習塾や習い事教室、スポーツクラブは「義務」の対象外です。民間事業者は任意で「認定制度」を利用できます。認定を受けた事業者には「認定マーク」が付与され、保護者への安心の可視化が可能になります。

左:認定事業者マーク(学習塾やスポーツクラブなどで、国の認定を受けた事業者が表示可能)
右:法定事業者マーク(学校、認可保育所などの義務対象事業者が表示可能)

ただし、「任意だから関係ない」で済まない場合があります。以下は盲点になりやすいケースです。

盲点① 学童保育は「任意」

放課後の学童保育は、「任意」の認定制度の対象です。「学校に近い施設だから義務かと思っていた」という誤解が多い領域です。ただし、子どもとの接触が濃密な事業形態であるため、認定を取得する意義は非常に高いと言えます。

盲点② 役所から業務を受注している事業者

委託型の学童など、その他子どもに対して技芸を教えるサービスを提供している事業所であって、行政から業務を受注・入札している事業者は注意が必要です。義務対象ではなくても、今後、発注元の行政側が日本版DBS認定を契約条件として求めてくる可能性があります。認定取得を入札参加要件や契約更新の条件にされる前に、先手を打って体制を整えておくことを強くお勧めします。

「任意だから後でいい」ではなく、いつ取得するかを経営判断として考えておくことが今求められています。

認定を取るとはどういうことか

認定マークの意味

国から認定を受けた事業者は、「子どもを性暴力から守る体制を整えている」というお墨付きとして認定マークを掲示できます。少子化が進み、保護者の選定基準が厳しくなる中で、安全を「見える化」できるこの認定は強力な差別化ツールとなります。

ただし、前の記事でも触れた通り、「認定マーク=犯罪歴を確認できる体制がある」だけを意味していません。その誤解には注意してください。認定に必要なのは以下の3つの柱すべてです。

認定に必要な「安全確保措置」3つの柱

  • 未然防止体制の整備:性暴力防止研修の定期実施・相談窓口の設置
  • 被害発生時の保護・支援体制:初動対応手順の明文化・被害者サポート体制の構築
  • 社内体制の整備:就業規則・情報管理規程・DBS確認記録の管理・設備面の環境構築

特に小規模な塾や教室では、本業の傍らでこれらを整備・継続するのは容易ではありません。専門家のサポートを使うことで、確実かつ効率的に進めることができます。

うちの事業は対象?判断基準の誤解しやすいポイント

「うちは塾だから対象」という単純な話ではありません。事業形態・指導の頻度・場所の構造・力関係など、複数の要素を組み合わせて判断します。以下の4つの要素を確認してください。

① 継続性・反復性—「短期間だから関係ない」は誤解

法的な目安として「標準的な修業期間が6ヶ月以上」が一つの基準とされています。ただし、ここで誤解が生まれやすいポイントがあります。

誤解しやすいポイント①:夏・冬の合宿シリーズも対象になる

「夏の短期合宿だから対象外」と思いがちですが、年内に複数回のプログラムを一連の事業として実施し、同じ子どもが複数回参加できる場合は継続性・反復性ありと見なされます。「夏と冬に合宿をセットで提供している」「年間を通じたコース制になっている」という形態は要注意です。

誤解しやすいポイント②:月1回は「反復性なし」だが週1回は対象

「同一の子どもと継続的・反復的に接することが想定されているか」が判断の軸です。頻度が少なくても継続性があれば支配性、継続性、閉鎖性の3つの要件のうち継続性を満たすこととなります。よって、「頻度が少ないから大丈夫」と油断しないでください。

閉鎖性—物理的な構造だけで判断しない

閉鎖性は「外部の目が届きにくい環境」かどうかで判断されます。

  • 物理的閉鎖性:防音個室・衝立で仕切られたスペース・外部から見えにくい場所
  • 形態的閉鎖性:マンツーマン指導・宿泊を伴う活動・指導者による送迎
  • 指導場所の決定権:児童の自宅を除き、事業者が指定した場所で指導を行う場合

「うちはガラス張りの教室だから大丈夫」という発想は危険です。物理的に見えていても、マンツーマンで送迎まで行っていれば閉鎖性ありと判断されうる点を押さえてください。

支配性—「1対1だけが対象」は大きな誤解

誤解しやすいポイント③:集団指導でも支配性は成立する

「支配性はマンツーマン指導の場合だけ」と思われがちですが、これは誤りです。集団指導であっても、「先生の前で恥をかきたくない」「先生に嫌われたくない」という心理が働く場面では、指導者が支配的・優越的な立場にあると判断されます。人数の多さは支配性の免除にはなりません。

支配性が高いと判断される具体的な場面

セルフチェックリスト

以下の質問に「はい」が多いほど、認定取得を検討すべき事業形態です。

DBSの認定制度の取得検討簡易セルフチェックリスト

【判定の目安】

  • 「はい」0個:認定対象となる事業の可能性はほぼありません
  • 「はい」1〜3個:任意認定を取得するか、保護者からの問い合わせへの説明を準備することをお勧めします
  • 「はい」4個以上:認定取得に向けた準備を強く推奨します。事業形態上のリスクが複合的に存在します

「迷ったら相談」が原則です。「うちは義務対象外だから大丈夫」という誤認が最も危険です。万が一、高リスクの事業形態であるにもかかわらず安全確保措置を怠り、性暴力事案が発生した場合、損害賠償請求や行政指導のリスクを負うことになります。

実務でよくある疑問Q&A

相談の場で繰り返し出てくる6つの疑問に答えます。

Q1:社長(代表者)や役員も確認の対象ですか?

A:日常的に子どもと関わる業務がある場合は対象です。

こども性暴力防止法の対象は「雇用形態や役職」ではなく「業務の実態」で判断されます。社長・役員であっても、教室で子どもに指導を行ったり、直接指揮監督する立場にある場合は確認が必要です。「役員だから関係ない」は通りません。

Q2:採用内定後、いつまでに確認を完了させるべきですか?

A:「業務を開始する前」までに完了が必須です。

原則、内定を出しても、子どもへの指導を始めるまでに犯罪事実確認の全プロセスを完了させなければなりません。本人の同意取得→犯罪事実確認の照会→確認書の受け取りまでに一定の時間がかかります。採用計画に余裕を持たせた上で、内定通知と同時に手続きを開始する運用フローを整備しておきましょう。

Q3:確認を拒否・拒絶した場合、どう対応すればいいですか?

A:「先手を打つ」準備が事業者側に必要です。

確認への拒否・非協力は実際に起こりえます。人事制度の変更全般に対してネガティブな反応をする方は必ずいますし、「なぜ犯罪者扱いされるのか」という心理的反発も当然考えられます。

だからこそ、認定取得前に事業者側が準備しておくべきことがあります。

  • 採用面接・内定時に「DBS確認が必須であること・拒否の場合は採用を見送る可能性があること」を明示し書面化する
  • 既存従業員には全体研修の場で「確認は潔白の証明にもなる」という文脈で制度説明を行う
  • 就業規則に「DBS確認への協力義務・拒否した場合の配置転換・懲戒処分の規定」を盛り込んでおく

拒否された場合の第一選択は配置転換です。ただし、それを実行できるだけの就業規則の整備が認定取得前に済んでいることが前提です。「拒否されてから対処を考える」では遅い。体制を先に作ることが肝心です。

Q4:確認記録の保管期間はどうなっていますか?

A:在職中か退職後かで期間が変わります。

  • 退職した場合:離職した日から起算して一定期間
  • 採用に至らなかった場合:内定取り消しなどの理由によって犯罪事実確認の手続きが途中で終わったものは、雇用開始日まで
  • 在職継続中:犯罪事実確認書に記載された確認日から起算して5年を経過した日の属す る年度の末日

情報管理規程に各雇用状況ごとの廃棄期限を明確に定め、業務カレンダーに廃棄期限を組み込んで厳守しましょう。廃棄漏れも情報漏洩と同様のリスクとなります。

Q5:外国籍の講師を採用する場合、母国の犯罪歴はどう確認しますか?

A:法的義務は日本の記録が対象。独自の安全確保措置が必要です

こども性暴力防止法に基づく犯罪事実確認は日本国内における犯罪の記録が対象です。母国での犯罪歴を網羅的に確認する仕組みは制度に組み込まれていません。

このリスクを低減するための現実的な対策として以下が考えられます。

  • バックグラウンドチェック専門会社への調査依頼
  • 申告内容と異なる事実が発覚した場合の配置転換・懲戒規定を就業規則に明記する
  • 情報が確認できない場合は複数人指導に限定するなど、より厳格な安全確保措置を講じる

法的義務の範囲外であっても、「できる範囲で最大限のリスク低減を講じた」という記録と体制が、万が一の際の事業者保護になります。

Q6:パート・アルバイトでも正社員と同じ確認が必要ですか?

A:はい。雇用形態に関わらず、子どもと接する業務はすべて同じです。

こども性暴力防止法の対象となる「教育保育等従事者」は職務内容で定義されており、正社員・契約社員・パート・アルバイト・派遣社員・ボランティアを問いません。アルバイト講師の採用フローにも犯罪事実確認を組み込む必要があります。採用コストや手続き負担を含めた運用設計を事前に整えておきましょう。

まとめ:施行開始を「社内の認識の差を把握する機会」として使う

コンプライアンスへの要求水準は年々高くなっています。「法令を守るのは当たり前」という意識が社会全体に浸透する中で、「知らなかった」「任意だから後回しにしていた」では通らなくなっていきます。

今回のこども性暴力防止法施行は、そういう意味でも良い機会だと思っています。制度への対応を進める過程で、社内の認識の差が必ず浮かび上がってきます。「管理職は知っているのに現場の講師は知らない」「就業規則は整備したけれど周知されていない」——そういった課題が可視化される機会として、この施行開始を捉えてもらえると、単なる「手続き」以上の意味が生まれると思います。

「とりあえず認定を取る」ではなく、自社の状況を棚卸しした上で、体制を設計してほしいというのが率直な考えです。

進め方に迷ったら、ぜひご相談ください。事業規模・形態に合った無理のない体制を一緒に考えます。

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