2026年4月報酬改定を読み解く~「暫定」の意味、基本報酬減額の実態、処遇改善加算を使いこなすために

はじめに

「基本報酬が下がった。経営が成り立たないのではないか」──2026年4月の報酬改定を受けて、そんな不安の声が届いています。

結論から言えば、一面では正しく、一面では誤解を含んでいます。今回の改定は「基本報酬の暫定的な見直し」と「処遇改善加算の大幅拡充」という、相反するように見える二つの動きが同時に起きています。

この二つを切り離して「下がった」だけを見るのは、地図の半分しか見ていないのと同じです。改定の全体像を正しく読み解いた上で、「今、自分の事業所は何をすべきか」を考えることが、この記事のゴールです。

まず「暫定」という言葉の意味を押さえる

今回の改定で最も誤解が多いのが、「暫定」という言葉です。「暫定=不安定・いつ変わるかわからない」と受け取る方が多いのですが、行政文書における「暫定」にはもう少し具体的な意味があります。

「臨時応急的な見直し」としての位置づけ

厚生労働省の資料では、2026年度の改定を「令和8年度における臨時応急的な見直し」と明示しています。通常、障害福祉サービスの報酬改定は3年に1度のサイクルで行われますが、今回はその中間年に「暫定」として実施されました。
令和8年度障害福祉サービス等報酬改定における改定事項について

📋 「暫定」が意味すること

  • 2024年改定(直近の本改定)から2年という短いサイクルでの見直し
  • 次の本改定(2027年度)に向けた「つなぎ」の措置という性格
  • 処遇改善加算の拡充など「プラスの措置」も同時に含む
  • 「いつ元に戻るかわからない」ではなく、2027年度改定に向けた布石

「暫定だから様子を見よう」ではなく、「暫定だからこそ、次の本改定に向けた体制整備を今から進める」という姿勢が求められます。

なぜ中間年に改定が行われたのか

背景には、物価上昇・人材確保難・処遇改善の必要性といった社会情勢の変化があります。3年サイクルを待っていては現場や社会の変化に対応できないという判断から、異例の中間改定となりました。

この流れは、障害福祉分野における「制度が現場の実態に追いつこうとしている」サインとも読めます。次の2027年度改定に向けて、「質の高い支援を提供している事業所が適切に評価される」方向に制度が動いていることを、念頭に置いておく必要があります。

基本報酬は「下がった」のか──実態を整理する

「基本報酬が下がった」は事実です。ただし、その幅と意味を正確に理解することが重要です。

基本報酬見直しの概要

2026年4月の改定では、児童発達支援・放課後等デイサービスの基本報酬が一部引き下げられました。引き下げ幅はサービス種別・定員の種別・開設している地域によって異なりますが、全体的には所定単位の2%未満にて調整されています。

⚠️ 基本報酬「減額」の文脈で知っておくべきこと

  1. 削減幅は「他の加算を取得できていれば補填できる水準」を前提に設計されている
  2. 処遇改善加算を適切に取得している事業所は、トータルでプラスになる可能性がある
  3. 加算を取得していない・低い区分のまま放置している事業所ほど、影響が大きくなる
  4. 「基本報酬だけ」を見て経営判断するのは、地図の半分しか見ていないのと同じ

つまり、今回の改定の構造は「基本報酬を削りながら、処遇改善加算で取り戻せる仕組みをセットで用意した」という設計です。この二つをセットで見ることが、今回の改定を正しく理解する鍵です。

処遇改善加算の大幅拡充──「使えていない」では済まない時代へ

今回の改定で最も大きな変化のひとつが、処遇改善加算の拡充です。対象者の拡大・加算率の引き上げ・新区分の創設と、複数の変更が同時に行われました。

支援の現場では、処遇改善加算の計画書作成を手伝う機会もありますが、「加算は取っているけれど、本当に使いこなせているか」という点で、まだ改善の余地がある事業所が少なくないように感じています。

2026年度の主な変更点

  1. 対象者の拡大:福祉・介護職員だけでなく、障害福祉従事者全体に対象を拡大
  2. 加算率の引き上げ:月1.0万円(3.3%)相当の賃上げを実現する措置
  3. 上乗せ措置:生産性向上・協働化に取り組む事業者の職員に月0.3万円(1.0%)を上乗せ
  4. 新区分の創設:加算Ⅰロ・Ⅱロ(令和8年度特例要件に対応した新区分)
  5. 新たに対象化:計画相談支援・障害児相談支援・地域相談支援にも新設

区分ごとの加算率と取得要件(概要)

※CPはキャリアパス要件の略称です。要件の詳細は各告示・通知をご確認ください。

「今年、何を目指すか」─段階的ステップアップ戦略

区分ごとの要件を見ると、「加算Ⅱイにいる事業所がⅠイを目指す」のは、要件のハードルを考えると一足飛びになりがちです。

そこで注目したいのが、令和8年度に新設された「加算Ⅱロ」です。Ⅱロは令和8年度の特例要件として設けられた区分で、Ⅱイからの移行要件が整理されており、かつ加算率はⅠイに並ぶ15.5%(放デイ15.8%)に達します。

現在加算ⅡイにいるⅡロを今年の重点目標に設定し、その後Ⅰロへの段階的な引き上げを図る─これが今年の現実的かつ効果的な戦略です。

ⅡイからⅡロへの移行で「追加」が必要なこと

★ 加算ⅡイからⅡロへ移行するために確認すること

  1. 職場環境等要件の取組確認
    各区分1つ以上・生産性向上2つ以上(⑱「現場の課題の見える化」は必須)・全体8以上を満たしているか確認する。すでに取り組んでいる活動でカウントできるものが多いため、まず棚卸しをする。
  2. 加算Ⅱロ相当額の1/2以上を月給賃金で配分する仕組みの整備
    Ⅱロの最大のポイントはこの「月給配分要件」です。これまで賞与・手当中心で配分していた事業所は、基本給等への組み替えを検討する必要があります(賃金体系の変更になるため、社労士との連携を推奨)。
  3. 令和8年度中の対応「誓約」でも可(特例措置)
    R8年度は誓約書の提出で算定可能ですが、実績報告書での確認があります。「誓約したが実施できなかった」場合は加算額の返還が求められます。誓約の内容を現実に実施できる計画で行うことが重要です。

なお、②の賃金体系の変更は社会保険労務士の専門領域です。行政書士としては区分要件の整理・計画書作成の支援を行い、賃金設計は社労士へのつなぎをご案内しています。それぞれの専門家と連携することで、適法かつスムーズな対応が可能になります。

「上位区分を取れていない」─なぜ起きるのか

加算ⅢやⅣのまま据え置いている事業所が一定数あります。その背景としてよく挙がるのが、次のような理由です。

⚠️ 上位区分を取れていない事業所によくある理由

  • 職場環境等要件の「取組数のカウント」の仕方を知らず、すでに実施していることが要件を満たすと気づいていない
  • キャリアパス要件Ⅳ(年収460万円)のハードルが高いと思い込み、Ⅱイ以上への移行をあきらめている
  • 計画書・実績報告書の作成が複雑に感じられ、前年度の区分のまま更新し続けている
  • そもそも今の自事業所がどの区分を取得しているかを管理者が把握していない

これらはいずれも、「知らない」「整理できていない」から来る損失です。要件そのものが達成不可能なわけではなく、整理と手続きの問題であることがほとんどです。

処遇改善加算の計画書・実績報告書の作成については、行政書士として支援できる内容です。「うちの事業所は今どの区分か」「上位区分を取るために何が必要か」を確認したい方は、お気軽にご相談ください。

💡 処遇改善加算 セルフチェックの視点

□ 現在取得している加算区分を管理者が正確に把握しているか
□ 職場環境等要件の「取組」として計上できる活動を棚卸ししたことがあるか
□ ⑱「現場の課題の見える化」を実施・記録しているか(Ⅱロ以上で必須)□ 加算額の1/2以上を月給賃金で配分する仕組みがあるか(Ⅱロ要件)
□ 計画書・実績報告書の提出期限を事前にスケジュール管理しているか
□ 加算額の配分方法が職員に説明・周知されているか

「改定通知の読み方」─次の改定に備えるために

報酬改定のたびに、厚生労働省・こども家庭庁から大量の通知・Q&Aが発出されます。「読む気が起きない」「どこを見ればいいかわからない」という声はよく聞きます。

ここでは、改定通知を効率よく読むための視点をお伝えします。

通知の構造を知る

  • 「告示」:報酬の単価・加算率を定める最上位の文書。数字を確認するために読む。
  • 「省令・府令」:指定基準・運営基準を定める。制度の骨格。
  • 「通知・解釈通知」:告示・省令の具体的な運用方法を示す。実務で最もよく参照する。
  • 「Q&A」:現場の疑問に行政が回答。実地指導での判断基準にもなる。

「暫定」「臨時」「特例」が出てきたら要注意

行政文書に「暫定」「臨時応急的」「特例」という言葉が出てくるときは、「通常ルールとは異なる期限付きの措置が含まれている」というサインです。今回の令和8年度特例要件(加算Ⅰロ・Ⅱロ)はその典型で、誓約で対応可能な代わりに実績報告での確認が必要という条件が付いています。

「特例だから後回し」ではなく、「特例の期限と条件を先に把握した上で、通常要件への移行を計画する」という読み方が正しい姿勢です。

📌 行政書士コラム:報酬改定は「予告」されている

報酬改定は、突然起きるわけではありません。数年前から審議会での議論が積み重ねられ、「次の改定でどの方向に向かうか」は、ある程度読み取ることができます。

たとえば今回の改定でも、「支援の質に応じた評価」「インクルージョンの推進」「人材確保・定着への対応」というキーワードは、直近の審議会資料に繰り返し登場していました。次の2027年度改定に向けても、同じ方向性が継続することは十分予測できます。

法務・総務経験のある方であれば、「法令の改正は公布から施行まで準備期間がある」という感覚はお持ちだと思います。福祉報酬の改定も同じで、審議会の動向を追うことで「次に何が来るか」を先読みできます。 このブログでも、審議会の動向を随時お伝えしていきます。改定の「予告を読む習慣」が、事業所の先手管理につながります。

次回:児発管とは何か─要件・役割・不在リスクを整理する

報酬のしくみが分かったところで、次は事業所運営の要となる「児童発達支援管理責任者(児発管)」について解説します。資格要件・実務経験・みなし児発管の扱い・そして不在になったときのリスクまで、実務視点で整理します。

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