障害児通所支援の処遇改善加算の実務|令和6年一本化の構造・区分別要件・令和8年度への戦略
目次
はじめに
処遇改善加算は、障害福祉サービス事業所の職員の賃金水準を引き上げるために設けられた加算です。令和6年改定で「処遇改善加算」「特定処遇改善加算」「ベースアップ等支援加算」の3つが一本化され、新たな「処遇改善加算(Ⅰ〜Ⅲ)」として再編されました。
加算率が最も高く、事業所の経営と職員の処遇に直結するこの加算を、「取るだけ」ではなく「職員に確実に届け、制度として機能させる」ことがこの記事のテーマです。
令和6年改定で何が変わったか─一本化の意味
改定前は「処遇改善加算」「特定処遇改善加算」「ベースアップ等支援加算」の3つが独立していました。令和6年改定でこれらが一本化され、新しい処遇改善加算(Ⅰ〜Ⅲ)に統合されました。
📋 一本化の主な変化点
- 旧3加算の届出・計画書・実績報告が1つに統合され、事務負担が軽減
- キャリアパス要件(Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ)と月額賃金改善要件の組み合わせで区分が決まる構造に
- 「ベースアップ等支援」の概念がⅠ・Ⅱ区分の月額賃金改善要件に吸収・統合
- 職場環境等要件の項目が整理・強化(令和6年度から区分問わず必須)
区分(Ⅰ〜Ⅳ)と要件の違い─どの区分を目指すべきか
令和8年度において、処遇改善加算は、福祉・介護職員のみならず、障害福祉従事者を対象としたこと、さらに、上乗せ措置の実施もあり、加算が拡充されました。

処遇改善加算の区分はⅠ(イ・ロ)・Ⅱ(イ・ロ)・Ⅲ・Ⅳの5段階があり、区分が高いほど加算率が高くなります。

Ⅱロは、令和8年度改定に向けて今年度中に移行することが経営的に有利な区分です。その理由は次の次項で詳しく解説します。
【令和8年度への戦略】ⅡイからⅡロへ─今年度中に移行すべき理由
令和8年度は、厚労省資料(PDF:001680064)で示されているとおり、 現行の「Ⅱ区分」を「Ⅰ区分」へ移行させる方向性 が明確になっています。
このとき、事業所にとって重要なのは、「Ⅱ→Ⅰに移行する」よりも、 事前に「Ⅱイ→Ⅱロ」へ移行しておく方が有利であるという点です。
【なぜ「Ⅱ→Ⅰに移行」よりも、Ⅱイ→Ⅱロへの移行が有利なのか】
厚労省資料では、以下の2点が明確です。
- ⅡイのままⅠイへ移行すると利率が低い
Ⅱイ → Ⅰイ という“飛び級”の移行は、 利率が低い区分へ移ることになり、事業所にとって不利。 - Ⅱロの方が利率が高く、Ⅰへの移行を段階的に踏める
Ⅱロ → Ⅰロ → Ⅰイ という 段階的な移行ルート を踏めるため、 利率面でも移行の安定性でもⅡロが優位。
という2つの理由から、
「Ⅱ→Ⅰに移る」よりも、 「Ⅱイ→Ⅱロ」に上げておいた方が、 令和8年度以降の利率・移行の両面で経営的に有利なことが明白となっています。
比較表
⚠️ ⅡイからⅡロへの移行で必要な準備
Ⅱロに移行するために必要なのは、 「Ⅱロの改善幅に合わせた賃金改善」と「計画書の提出」 のみ。
- 賃金改善
- 職場環境等要件の実施
ICT導入、生産性向上、協働化など全区分共通の必須要件 - 賃金改善計画書の更新
ⅠロやⅡロへ変更する場合は、ⅡからⅠに変更するのと同様、計画書を改訂して提出
賃金改善計画書・実績報告書の作成─「書類が義務の証明」
処遇改善加算を算定する事業所は、毎年度「賃金改善計画書」と「賃金改善実績報告書」の作成・提出が義務付けられています。
📋 計画書・実績報告書の主な記載内容と提出期限
【賃金改善計画書】
- 作成・提出時期:算定開始年度(毎年度)の指定された期限までに提出(都道府県によって異なる。概ね4〜6月)
- 主な記載内容:加算の算定額見込み・賃金改善の対象職員・改善方法(月額給与・手当・賞与等の内訳)・改善総額の根拠
【賃金改善実績報告書】
- 作成・提出時期:年度終了後の指定された期限まで(概ね7〜9月)
- 主な記載内容:実際に算定した加算額・実際に実施した賃金改善の内容・計画との差異とその理由
🔴 計画書・実績報告書で特に注意すべき点
- 計画書で記載した「賃金改善の方法」と、実際に職員に支払った内容が一致していること(不一致は加算返還の対象になりうる)
- 「加算全額を賃金改善に充てる」義務がある(事業所の収益に転用することは原則不可)
- 実績報告書の提出期限を過ぎると加算の返還を求められる場合がある
「加算を職員に届ける仕組み」をつくる─透明性が信頼をつくる
処遇改善加算は「事業所が取る」ものではなく、「職員の賃金改善のために使う」ものです。加算を算定しているにもかかわらず、職員が「自分の給与がどう改善されたかわからない」という状態では、加算の本来の趣旨が達成されていません。
- 職員への説明:年度初めに「今年度の処遇改善加算の算定額・改善の方法・一人当たりの影響額(概算)」を説明する機会を設ける
- 給与明細への反映:処遇改善加算による改善額を給与明細に明記する(「処遇改善手当」等として項目立てすると透明性が高まる)
- 実績報告書の共有:実績報告書の内容を職員に開示することで、「加算が確かに職員に届いている」という信頼が生まれる
- 採用・定着への活用:「処遇改善加算により、業界水準より高い賃金を実現しています」という事実を求人票・採用説明会でアピールする
「加算を取る」ことと「職員に届ける仕組みをつくる」ことは、セットで初めて意味を持ちます。この両輪が揃った事業所は、職員の定着率・採用力・保護者からの信頼という3つの面で優位に立てます。
📌 行政書士コラム:処遇改善加算は「経営の戦略課題」
法務・総務の経験から言うと、「給与制度」と「報酬制度」は組織の根幹です。障害児通所支援事業所にとって処遇改善加算は、この「給与制度」を国が補助する仕組みです。単なる手続きではなく、経営戦略として捉えるべきものです。 「どの区分を取るか」「どう職員に分配するか」「令和8年度に向けてどう移行するか」──この判断には、行政書士による申請支援と社会保険労務士による賃金設計の両方が必要です。経営の観点から、専門家をうまく活用してください。
次回(STEP5へ):運営指導・監査に備える─自己点検表の活用と事前準備
STEP4「稼ぐ」編がここで完結します。次回からはSTEP5「守る」編として、こども家庭庁の自己点検表を活用した運営指導対策と、記録・個人情報管理の実務を解説します。
