DBSの核心:「犯罪事実確認書」による厳格な確認フローとプライバシー保護の仕組み

はじめに

「日本版DBS法」(こども性暴力防止法)の導入に向けた解説も、今回で6回目となりました。
これまでの解説を通じ、DBS認定制度は子どもの安全確保を第一義としつつ、事業者のコンプライアンスと従業員のプライバシー保護のバランスを追求した仕組みであることがご理解いただけたかと思います。

前回までの記事で、認定の対象となる事業所の特性(継続性・閉鎖性・支配性)や、確認対象となる犯罪歴の範囲について詳しく触れてきました。
しかし、経営者様や従業員の皆様が最も懸念されるのは、やはり「過去の犯罪歴という極めてデリケートな情報が、どのように扱われ、どこまで雇用主に知られてしまうのか」という点ではないでしょうか。

DBS制度は、この不安を解消するために、極めて厳格な情報管理フローのもと、犯罪事実確認書を交付することとしております。本記事では、このDBSの核心となる確認フローを、行政書士の視点から詳細に解説し、情報漏洩やプライバシー侵害への不安を払拭します。

事業者・従業員の共通の不安:前科の情報はどのように扱われるのか

「犯罪歴の確認」と聞くと、事業者(雇用主)が警察や裁判所から従業員の過去の全履歴を直接入手し、詳細な情報を知ってしまうのではないかという誤解が生じがちです。

しかし、事業者が従業員の過去の詳細な犯罪記録やプライベートな情報をすべて入手することを徹底して防ぐために設計されています。提供される情報は、子どもの安全確保のための適格性判断に必要な最小限に絞られています。その鍵となるのが、以下の原則です。

原則1:犯罪事実確認書の交付による情報制限

事業者が直接、法務省等に照会するのではなく、こども家庭庁等を通じて手続きが進行します。そして、事業者に提供されるのは、以下の3点を記載した「犯罪事実確認書」です。これにより、具体的な事件内容や刑の詳細は知らされません。

  1. 特定性犯罪歴の有無
  2. (犯罪歴があった場合)裁判が確定した日
  3. 拘禁刑か罰金刑なのか(特定性犯罪の区分)
≪引用元≫こども性暴力防止法における情報管理措置の「基本的考え方」https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/d4cfb3a5-0b82-4cbc-85a4-0a7b46431780/c06bf24c/20250526_councils_koseibo-jumbi_d4cfb3a5_09.pdf

原則2:目的外利用の厳禁

事業者は、この確認で得られた情報を、子どもの安全確保という目的以外で利用することが厳しく禁じられています。たとえば、昇進や配置転換などの人事評価の材料にすることは法令違反となります。

この仕組みにより、特定性犯罪歴の確認は、「誰が、どのような犯罪を犯したか」を知ることではなく、「その従業員が、子ども関連業務に就かせても問題がないか」という適格性の判断に限定されます。

DBSの核心:「犯罪事実確認書」における厳格な確認フロー

こども性暴力防止法施行準備検討会 中間とりまとめ 2025年9月29日

申請(事業者・従業員)

確認手続きは、まず事業者が申請書を公的機関に提出します。それと同時に、従業員が特定性犯罪歴の照会に同意し、照会に必要な戸籍電子証明書提供用識別符号などの情報を提供することから始まります。
従業員によるこの「情報提供と同意」がなければ、事業者は手続きを進めることができません。

照会(こども家庭庁・法務省)

事業者の申請と従業員の同意を受け、こども家庭庁が、その従業員に特定性犯罪歴の記録があるかどうかを照会します。この段階で、事業者は一切情報にアクセスできません。

【重要】犯罪歴があった場合の「本人通知・訂正請求」

ここが、DBS制度のプライバシー保護機能の核心です。
もし、照会の結果、特定性犯罪歴の記録が確認された場合、その情報は即座に事業者には伝達されません。

  1. 本人への通知
    まず、従業員本人に対し、「特定性犯罪歴の記録がある」という事実が通知されます。
  2. 訂正請求
    従業員本人は、通知内容に誤りがないかを確認し、もし間違いがあれば、約2週間の期間内に行政機関に対して訂正や異議の申し立てを行うことができます。

このプロセスを経ることで、誤情報による不利益を未然に防ぎ、従業員の防御権を保障しています。

証明書発行(こども家庭庁)

上記の訂正請求期間が過ぎる、または申し立てがなかった場合、公的機関は最終的な確認結果を記載した「証明書」を発行します。

確認(事業者)

事業者は、この公的機関が発行した証明書を受け取り、その内容に基づき、当該従業員が子ども関連業務の適格性を満たしているか否かを判断します。
この判断は、「特定性犯罪歴がある」か「ない」かという極めて限定的な情報にのみ基づきます。

事業者が知る情報:「証明書」に記載される内容

事業者が最終的に知ることのできる情報は、制度の目的を果たすために必要最小限のものに限定されています。この証明書は、「前科証明書」のような詳細なものではありません。

証明書に記載される内容

こども家庭庁から発行される証明書に記載される内容は、主に以下の3点のみです。

  1. 特定性犯罪歴の有無
    照会対象となる犯罪歴が「ある」か「ない」か。
  2. (犯罪歴があった場合)DBSとして対象となる刑の区分
    確定した刑が拘禁刑(執行猶予を含む)か罰金刑か。
  3. 裁判の確定日
    裁判がいつ確定したのか。

証明書に記載されない情報(事業者が知ることはない)

事業者は、以下の極めて重要な情報を知ることはありません。

  • 具体的な罪名
    強制わいせつ罪、児童ポルノ製造罪など、具体的な犯罪名は一切記載されません。
  • 刑期や罰金の額
    判決の内容(懲役期間、罰金額、執行猶予の有無など)は一切記載されません。
  • 事件の発生日時や場所
    いつ、どこで起こった事件かという詳細な背景は提供されません。
  • 氏名以外の個人情報
    生年月日、住所、過去の居住歴なども原則として含まれません。

この限定的な情報伝達の仕組みこそが、DBS制度がプライバシー侵害を最小限に抑えつつ、子どもの安全を最大限に確保する、という二律背反する目的を両立させるための答えなのです。

情報管理の徹底:事業者に求められる法的遵守事項

証明書によって限定的な情報を得た事業者には、その犯罪歴の有無といった極めて機微な情報を守るための厳格な法的責任が課せられます。この義務を怠ることは、単なるコンプライアンス違反ではなく、認定の取り消しや刑事罰につながる重大なリスクです。

照会情報の厳格な管理と目的外利用の禁止

事業者は、こども家庭庁から得た特定性犯罪歴の有無に関する情報(証明書やその内容)を、子どもの安全確保という目的以外で利用することは、法律で明確に禁じられています。
人事評価や、職場での不利益な扱いの根拠として利用された場合、法令違反となり、行政監査の対象となります。情報の閲覧権限は、人事責任者など限定された者のみとし、厳重な物理的・IT的な管理が必要です。

法定された廃棄義務

証明書の内容は、法令に基づき、必要なタイミングに速やかに、かつ確実に廃棄することが義務付けられています。

永遠に企業内に保管しておくことは許されません。廃棄にあたっては、復元不可能な方法(シュレッダー、データ消去など)を確実に実行し、廃棄した記録を保持するなど、適切な情報管理をしなければなりません。

法的リスクと行政書士の役割

これらの情報管理義務は、事業者にとって非常に重いものです。特に、中小企業においては、情報管理規程の策定や、秘密保持体制の確立が追いついていないケースが多く見られます。
行政書士は、これらの情報管理に関する規程(社内規定、就業規則など)の策定、情報管理体制図の整備、そして行政機関への申請書類の作成を代行し、事業者が情報漏洩や法的違反のリスクを負わないよう、サポートすることができます。

まとめ

DBS制度は、単に「前科を調べる」手続きではありません。それは、「公的証明書」という仕組みを通じて、従業員のプライバシーを最大限に保護しつつ、子どもの安全を担保するための、公正で厳格な行政手続きです。
しかし、その手続きの厳格さゆえに、事業者が単独で対応するには多大な手間とリスクが伴います。

  • 従業員の同意取得と戸籍情報の取り扱い。
  • 申請書類の作成と行政機関との折衝。
  • 認定後の情報管理、廃棄、定期報告。

これらの煩雑な手続きをどのような体制とルールで行うのか、専門家である行政書士や社労士、弁護士などに相談することで、事業者は経営資源を本来の事業活動に集中させ、同時に法的遵守と情報管理のリスクを劇的に削減することができます。
DBS認定の取得は、子どもの安全に対する社会的責任を果たす決意の証です。その手続きの正確性と安全性を確保するために、ぜひ専門家である行政書士の力を活用することをご検討ください。

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