【府中市 行政書士】DBS法の限界:性犯罪歴以外で「適性」を調べるリスクと対策

はじめに:DBSは「性犯罪歴」の確認に限定される

子ども関連業務を行う認定事業者の皆様は、採用時において、DBS法に基づく特定性犯罪歴の確認を厳格に実施されています。しかし、この手続きは、子どもの安全確保のスタート地点に過ぎません。

DBS法に基づく確認は、あくまで過去の「特定性犯罪歴」の有無に限定されています。この制度では、以下のような、子どもの安全に関わる他の重要な「適性」や「問題点」を事前に知ることはできません。

  • 過去の指導上の問題
    過去の勤務先での不適切な指導、体罰、またはハラスメントによる懲戒処分歴。
  • 窃盗・詐欺などの一般犯罪歴
    性犯罪以外の、信頼性に関わる一般の犯罪歴。
  • 精神的な健康状態
    業務遂行上の適性に影響を及ぼす可能性のある情報。

これらの情報を、DBS確認の制度外で、事業者が独自に調査・確認しようとする試みは、子どもの安全確保の意図とは裏腹に、重大な法的・倫理的リスクを招きます。

本記事では、認定事業者がDBS法の限界を理解し、制度外での不適切な調査が招くリスクと、それを回避しながら安全性を高めるための現実的なコンプライアンス措置について、行政書士の視点から解説します。

過剰な「適性確認」が招く法的リスク

事業者がDBS法に基づく確認の範囲を超えて、応募者の諸情報(適性や過去の指導上の問題など)を不用意に調査・収集することは、差別やプライバシー侵害につながるリスクが極めて高いため、厳に控えるべきです。

調査の合理性の欠如と採用ハラスメント

採用選考において、応募者の過去の懲戒処分歴や不適切な指導歴などの情報を調査することは、「採用の必要性・合理性」が認められる場合でも、個人情報保護法上のリスクや人権侵害のリスクが極めて高いため、基本的には控えるべきです。

人権侵害のリスク

厚生労働省の定める「公正な採用選考の基本」は、採用選考の目的に沿わない思想・信条、本籍地、プライバシーなどの調査を禁じています。過去の指導上の問題や一般の犯罪歴の調査は、これらの差別の原因となるおそれがあるため、人権侵害と見なされる可能性が高いです。

不当な差別・ハラスメント

独自に収集した情報(例:前職の懲戒処分の記録など)を根拠として採用を拒否した場合、それが応募者の適性や能力と客観的に無関係であれば、合理的理由のない不当な差別と見なされ、優越的な地位を利用した採用ハラスメントとして訴訟に発展するリスクがあります。

DBS法上の目的外利用

特定性犯罪歴に関する情報を子どもの安全確保以外の目的に利用する行為は、DBS法に違反する目的外利用として、行政指導の対象となり、企業の信用を大きく損ないます。

個人情報保護法と「要配慮個人情報」のリスク

DBS法に基づく特定性犯罪の犯罪歴に関する情報は、「子どもの性暴力防止」という限定された目的以外で利用することが厳しく禁じられています(目的外利用の禁止)。

また、特定性犯罪歴を含む犯罪歴の情報は、個人情報保護法上の「要配慮個人情報」に該当します。法令に基づく場合や本人の同意がある場合を除き、その取得は厳しく制限されています(個人情報の保護に関する法律 第20条)。

よって、事業者は、DBS法で許された範囲を超えた機微な情報の収集・利用を厳に控えるべきです。

制度外のリスクへの具体的な対処法

DBS確認が万能ではない以上、事業者は「採用から退職までの管理・教育」と「現場でのリスク防止機能」いう、リスクを顕在化させない仕組みを構築することが、最も現実的かつ合法的な対処法となります。

採用時の「適性」に関する面接と誓約の徹底

以前のブログで解説した契約上の誓約は、性犯罪歴以外の不適格事由にも応用できます。

  • 就業規則との連携
    雇用契約書に「過去に子ども関連業務で重大な懲戒処分(体罰、ハラスメント等)を受けた事実がないこと」を誓約させる条項を盛り込む。
  • 虚偽判明時の懲戒
    虚偽が判明した場合、誓約義務違反を根拠に、就業規則に基づき懲戒処分を行う体制を整備することで、法的安定性を確保します。

採用後の継続的なリスク管理と研修

不適切な指導は、採用後に発生するリスクです。採用後の教育と管理こそが、DBSの限界を補完します。

倫理研修の義務化

児童対象性暴力対処規程に基づく研修だけでなく、人権尊重、ハラスメント防止、不適切な指導の定義に関する定期的な研修を全従事者に義務付けます。

管理者による日常的な監督

子どもに接する従事者の指導状況を、管理者が定期的にチェックし、不適切な指導の兆候を早期に把握できる仕組みを構築します。

子どもの状況を常に確認すること

子どもの行動や表情がいつもと異なるといった小さな違和感も重要なサインです。子どもが性犯罪の被害を受けている認識がないまま、被害が繰り返されている可能性もあります。管理者も子どもの指導を現場任せにせず、現場の状況を把握するように努めましょう。

苦情・相談窓口によるリスクの早期発見

DBS法がカバーできない「不適切な指導」や「ハラスメントの兆候」は、被害者や保護者、第三者の声によって初めて明らかになるケースがほとんどです。

児童対象性暴力対処規程に基づく相談窓口の運用

児童対象性暴力対処規程には、苦情・相談への対応に関する事項を定める義務があります。この窓口を単なる形式ではなく、実効性のあるリスク早期発見システムとして機能させることが重要です。

  • 窓口の周知徹底
    保護者、子ども本人、従事者に対して、窓口の存在、利用方法、秘密厳守の原則を繰り返し周知します。
  • 外部専門家の活用
    犯罪事実の調査をするにあたって、事実を明らかにすることはとても難しいものです。子どもへのヒアリングの仕方によっては、子どもの心理に大きなダメージが発生するかもしれません。そのため、公認心理士や法律の専門家など外部の専門家と連携しつつ、内部の利害関係に囚われない中立的な対応と、プライバシー保護の徹底を図ることができます。これは、相談者が安心して情報を提供する上で決定的に重要です。

通報者保護の徹底

不適切な指導について通報した従事者や保護者に対する報復的な行為を厳しく禁じるルールを就業規則等に明記します。通報者が安全に情報提供できる環境こそが、隠れたリスクを表面化させる鍵となります。

まとめ:DBSは「万能ではない」:制度と社内体制の二段構えのリスクヘッジ

DBS法は、特定性犯罪歴の確認という、子どもの安全確保における最小限のセーフティネットを提供しますが、それ以上の「適性」については保証しません。

事業者が、DBSの限界を超えて独自に調査を行おうとすることは、採用ハラスメント、個人情報保護法違反、差別といった、新たな法的リスクを招くだけです。
真のリスクヘッジは、以下の二段構えで実現されます。

  1. 法定の手続きの厳格な履行: DBS確認を正確に行う。
  2. 制度外リスクの管理体制: 宣誓条項の整備、継続的な倫理研修、そして実効性のある苦情・相談窓口の設置・運用。

弊所では、規程の策定支援や外部相談窓口としての機能提供を通じて、貴社の実態に即したコンプライアンス体制を構築し、DBS法がカバーできないリスクを含めた子どもの安全管理体制の実現をサポートいたします。

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