日本版DBSの不祥事対応|認定取消しを防ぐ報告義務と規程策定の実務(東京都府中市)
目次
はじめに
日本版DBS(こども対象性暴力防止法)の認定を受けた事業所にとって、最も恐ろしいシナリオは、自社のスタッフによる不祥事の発生と、それに伴う「認定の取消し」です。
認定が取り消されれば、対外的な信用は失墜し、事業の存続そのものが危うくなります。しかし、どれほど厳格に照会を行っていても、人間の行動を100%予測することは不可能です。
今回は、万が一不祥事が起きてしまった際の「行政報告」のルールと、認定取消しという最悪の事態を避けるための「日頃の備え」について解説します。
起きてしまった後の初動が、事業所の存続を分ける
「もし自社のスタッフが子どもに対して性暴力を振るってしまったら……」
考えたくもない事態ですが、経営者や事務担当者は、この「最悪の事態」を想定したマニュアルをあらかじめ持っておく必要があります。
不祥事が発生した際、事業所の存続を分けるのは「隠蔽(いんぺい)」や「放置」ではなく、「迅速かつ誠実な情報開示と行政報告」と「被害を受けた子どもや保護者へのケア」です。法が求める報告義務を正しく果たし、組織としてできる限りの対策を講じていたことを証明できれば、認定の継続(=事業の継続)への道が開かれます。
行政庁への報告フロー:性犯罪が判明した際の手順
スタッフが子どもに対して性暴力を行った、あるいはその疑いで逮捕されたり、調査を実施を開始した場合、認定事業者は速やかに行政庁(こども家庭庁など)へ報告する義務があります。

初期対応としてやるべきこと
安全確保措置として、初期対応では、次のことを事業所にて対応することとなります。(上図の紫色の枠内)
発覚時の初期対応
- 些細な情報であったとしても、真摯に受け止め、迅速に事実確認に移ることが初手の原則です。
- 児童等の二次被害や記憶の汚染につながらないよう、 聴取する事項は児童等が主体的に話す内容に限って最低限にとどめ、対象事業者側が積極的に 質問を児童等に問いかけ、答えを得ようとするようなことがないようにすることが重要です。
- 被害に関するヒアリングはとても高度な技術を要し、却って事実がゆがめられ、子どもや保護者、疑われたスタッフ、事業所の全部が傷つく結果にもなるため、臨床心理士や弁護士など専門家のへの相談もためらわず、冷静な判断に努めましょう。特に、認定取得を支援した行政書士がいる場合は、直ちに弁護士の紹介などの相談をしましょう。
一時的な積極回避策として防止措置を講じる
- 被害が他の児童等も含めて拡大する可能性も踏まえ、加害が疑われる者が子供と接触する業務を一時的に外すなどの担当変更をしましょう。(例:事実の調査の間も、児童等と接触しない事務作業に従事 させ、児童等との接触を禁止する/自宅勤務・自宅待機とする)
- 場合によっては、加害が疑われる者が、自身に疑いがかけられていることを察知すると、証拠隠滅や行方をくらませるなど、事実解明に支障をきたす可能性があるため、調査をする前に警察に事前に相談することも選択肢として持つことをお勧めします。
保護者への連絡、説明
- 保護者の話を傾聴し、ショックや怒りを受け止め、誠実に対応することで、保護者の心理的ストレスを軽減する措置も講じましょう。
- また事業者は児童等を守ることを最優先に行動する姿勢を、真摯に、強く表明し、児童等への適切な接し方について保護者に伝えることで事業所と保護者の信頼関係の強化に努めましょう。
- 保護者によるヒアリングは子供の記憶の汚染につながって、却って真相解明の妨げになる可能性もあります。そのため、警察や専門家との連携も示し、まずは子どもの心身の健康や安全第一に関係者が一丸となることを伝えましょう。
犯罪が疑われる場合は、警察への対応
- 児童等から開示された情報を適切に記録しつつ、犯罪であると客観的・合理的に推測できる時には、警察や、児童相談所、弁護士や臨床心理士等の専門家にも相談しましょう。
いつ、その事実を報告するのかタイミングと対象
こども家庭庁やその他所管行政庁に対しては「事実を把握したときから遅滞なく」報告することが求められています。犯罪が疑われる場合に警察に対し通報や相談をするタイミングや、その他初期対応した段階で関係機関に第一報を入れるのが実務上の定石です。現実的には、詳細な事実整理ができておらず、情報は速報ベースかもしれません。しかし、調査や再発防止策で講じるタイミングまで待たず、警察や関係機関と一体的な調査を行うなど、「関係者が知恵を絞って適切な対応をするために」という目的意識を念頭に置きながら、相談・報告するようにしましょう。
所轄庁やこども家庭庁への報告を怠った際のリスク
安全確保措置義務に違反したとして、認定を取り消される可能性があります。またどのような運営がなされていたのかを確認するためにこども家庭庁や所轄庁からの監査や行政指導を受ける可能性もあるでしょう。
また、虚偽の報告をした場合は、それ自体が認定取消しの直接的な理由となります。行政は「事件が起きたこと」以上に「組織として自浄作用が働かないこと」を重く見るからです。
また、規程違反とみなされるとインターネットで公表されます。これによって、保護者や地域社会からの厳しい目にさらされるだけでなく、風評被害などさらなるトラブルに発展する可能性も考えられます。
これらの可能性を鑑み、起きた事実に真摯に向き合う姿勢を第一に、冷静かつ慎重に、1つずつ丁寧に対応することが重要です。
認定取消しを避ける是正措置:「組織的な不備」でないことを証明する
スタッフが事件を起こしたからといって、機械的にすぐ認定が取り消されるわけではありません。ポイントは、その事件が「組織的な不備(管理不足)」によるものか、それとも「個人の悪質な逸脱」によるものかという点です。様々な側面において「組織的な不備」が推察できる実態だと認定取り消しとなる可能性が高まりますので、次の点に留意した業務運用をしましょう。
日頃の「指導記録」が法的盾になる
行政庁は調査の際、「事業所は本当にDBSのルールを守っていたか?」を確認します。この時に主軸となる規程は「児童対象性暴力等対処規程」です。この運用に従い適切な業務遂行をしていた記録が残っていれば、「組織としては最善を尽くしていた」という証明になるでしょう。
- 実施体制の適切さ
報告ルールや対応ルールが規程に設定されている通りに適切に行われたのか。 - 防止措置の適切さ
特定性犯罪事実の犯罪歴を持つスタッフを子どもに接する業務に従事させない、加害が疑われている従事者に対し被害を受けた子どもの接触回避策を講じたのか(子供と接触する業務に従事させないことも含む)、軽微な事象であった場合に適切な指導や研修受講命令の実施、経過観察など注意深い対処を行ったか等、対処規程に定めた防止措置に従った対応が行われたのか。 - 相談窓口の設置
子どもや保護者が異変を伝えられる窓口が機能していたか。 - 研修の実施
子どもの性暴力に関する理解を深め、それを防止するるための研修を実施していたのか
再発防止策の迅速な提示
事件発生後、直ちに「防犯カメラの増設」「見通しの良い教育現場の構築」「配置ルールの見直し」「外部専門家による再発防止委員会の設置」などの是正措置を打ち出し、行政に報告できる事実を積み重ねておくことも、認定継続への最終防衛線となるかもしmれません。
現場に根付くマニュアル作り:規程をファイルに眠らせない
立派な「日本版DBS運用規程」を金庫に眠らせていても、現場のスタッフが動けなければ意味がありません。現場リーダーや講師が迷わず動ける「生きたマニュアル」が必要です。
「5分でわかるDBS運用」の作成
分厚い規程とは別に、現場用のクイックガイドを用意しましょう。また、こども家庭庁にて啓蒙のための研修動画やリーフレットが作成されている場合もありますので、これら公的機関の情報も賢く活用しましょう。
- NG行動集
「子どもとSNSを交換しない」「個室で二人きりにならない」などの具体例。 - 異変の報告ルート
「スタッフ同士で『あれ?』と思ったら誰に言うか」を明確にする。 - 緊急時連絡先
警察や弁護士、行政への連絡フロー図。
社内各リーダーへの周知と規程作成への巻き込み
このマニュアル作成には、子どもに接する実務責任者だけでなく、経営者や事務担当者も深く関わって作成することをお勧めします。「私たちの教室は、万が一の事態にもここまで徹底して動ける準備があります」という透明性は、危機管理広報(クライシス・コミュニケーション)の核となります。また、対処すべき手順を皆で理解し、それぞれの職責で適切な行動をとることができれば、新たなサービスの付加価値や、子ども・保護者への信頼へと繋がるでしょう。
結び:DBS運用は「負担」ではなく、ブランドを守るための「投資」
最後にお伝えしたいのは、日本版DBS制度は決して「事業者を苦しめるための縛り」ではないということです。
確かに事務負担は増えます。スタッフへの説明も神経を使います。この制度を悪用し貴社を陥れようとする保護者や部外者の対応も発生するかもしれません。しかし、DBSという仕組みを正しく導入し、規程を策定し、現場に浸透させるプロセスは、そのまま「子どもや地域にとって最も安全な事業所」というブランドを構築するプロセスに他なりません。
DBSの運用に真摯に取り組む姿勢は、保護者に対する最大の誠実さの証明であり、子どもたちの未来を守るための聖域を創ることです。
対応すべき実務に不安を感じる方は、ぜひ理想の伴走者として弊所をご活用ください。規程の策定から現場への浸透、万が一の際の行政対応まで、共に安全な教育・保育の未来を創っていきましょう。
