日本版DBSにおける採用面接ガイド|聞いていい質問・いけない質問・採用フロー設計を行政書士が解説

はじめに:「面接後でないと聞けないのか」という誤解

日本版DBS制度の採用実務で最も多く受ける疑問のひとつが、「犯罪歴の有無確認は内定後に行うものですよね?」というものです。「面接中に確認の話をしてもいいのか」「どのタイミングで切り出すべきか」——ここで迷う事業者は少なくありません。

結論を先に言うと、「犯罪事実確認という手続きそのもの(照会手続き)は内定後が原則」ですが、採用面接の段階から日本版DBS制度による犯罪防止措置の存在を伝えること・適性を確認する質問をすることは、適切に行えばむしろリスク軽減になります。

もう一つよくある誤解は、「特定性犯罪の犯罪事実確認の手続きをするんだから、面接で直接犯罪歴を聞いてもいい」というものです。これは誤りであり、採用ハラスメントのリスクを生みます。本記事では、面接でできること・できないことの境界線を整理します。

第1章 求人広告から業務開始まで:採用フローの正しい設計

日本版DBSにおける犯罪事実確認を採用プロセスに組み込む際、「どのタイミングで何をするか」を事前に整理しておかないと、後でトラブルになります。以下の表を参考に採用フローを設計してください。

採用フローの再設計において検討すべきこと

「面接時から伝える」ことのメリット
求人広告・面接段階から犯罪事実確認の存在を明示することで、応募者は事前に心構えができ、内定後の突然の通知によるトラブルを防げます。「子どもの安全を真剣に考えている事業所」という印象を与えることで、同じ価値観を持つ人材が集まりやすくなるという副次効果もあります。

第2章 「聞いていい質問」と「してはいけない質問」の境界線

「犯罪事実確認があるから面接で犯罪歴は聞ける」という誤解

「子どもの安全を守りたいから直接聞きたい」という面接官の気持ちは理解できます。しかし、日本版DBSという制度存在するからといって、面接時にあらゆる犯罪歴の聴取を正当化してはいません

問題は「安全確認のため」という目的が先行するあまり、「日本版DBS制度があるからいいじゃないか」と安直に考えることです。業務と密接に関係しない質問・プライバシーに過度に踏み込む質問は、採用ハラスメントとして認定されるリスクを生みます。採用面接での質問は、「業務との関連性があるか」「プライバシーへの侵害が最小限か」という2点で判断してください。

採用面接での質問の可否

面接官が守るべき原則

  • 「安全確認」を口実にした病歴・家族構成・宗教・思想信条の聴取は行わない
  • 犯罪事実確認における照会で確認する事項(犯罪歴等)を面接で重複して問い質すことは避ける
  • 聴取した情報は採用判断の目的のみに使用し、第三者に提供しない(個人情報保護法)
  • 面接官は事前研修を受け、「何を聞いてよいか・よくないか」を複数人で共有しておく

面接官が複数いる場合、「うっかり聞いてしまった」というリスクが高まります。面接前に質問リストを共有し、逸脱した質問が出ないよう管理することが重要です。

ただし、全応募者に対して一律で以下を伝え、自己申告の機会を設ける事は有効です。その場合は、「当社では子ども関連業務のため、内定後にこども性暴力防止法に基づく特定性犯罪歴の確認を行います。確認の結果によっては内定取消しや試用期間中の解約事由となる場合があります。これを踏まえた上で、ご自身に確認上の問題が生じる可能性があるならば、教えていただけますか?」 と回答を強制せず、任意の申告機会として提供するようにしましょう。

第3章 犯罪事実確認の照会の「空白期間」をどう埋めるか

犯罪事実確認の照会の結果が出るまでには数週間かかります。急ぎの採用では「照会結果が出る前に業務を開始させたい」という場面が生じます。この空白期間のリスク管理が重要です。

  • 原則:照会結果が確認できるまでは、子どもと接する業務に単独で従事させない
  • 自己申告書の取得
    性暴力行為歴等がないことの確認書(誓約書)を採用時に取得することで、虚偽申告リスクへの対応とする
  • 研修を受講させる
    日本版DBS制度にて必要な対応や、社内でのルールを入社時研修にて教育し、適切な行動を促す。
  • 試用期間中の行動観察
    行動記録として残す。「おそれ」の判断記録(判断ログ)にも活用する

第4章 日本版DBSの限界:「確認したから大丈夫」という過信が最も危険

犯罪事実確認は防止措置の「一つ」にすぎない

犯罪事実確認をしたから安心——この思い込みが最も危険です。犯罪事実確認でわかるのは「特定性犯罪歴の有無」だけです。以下のリスクは犯罪事実確認では把握できません。

  • 過去の職場での不適切な指導・体罰・ハラスメントによる懲戒処分歴
  • 性犯罪以外の一般犯罪歴(窃盗・詐欺等)
  • 採用後に初めて発生する不適切な行動

犯罪事実確認はあくまでも防止措置の一つ
日ごろから被害を出さない心がけを組織全体でどれだけ持ち続けられるか——それが最大の犯罪防御策です。犯罪事実確認は「過去の記録」を確認するものに過ぎません。採用後の研修・日常的な観察・相談窓口の機能——これらが組み合わさって初めて、子どもの安全が守られます。

犯罪事実確認の限界を補完する3つの手段

① 採用時の誓約書

「過去に子ども関連業務で重大な懲戒処分を受けた事実がないこと」を誓約させる条項を雇用契約書に盛り込みます。虚偽が判明した場合の懲戒処分の根拠にもなります。

② リファレンスチェック(前職照会)

前職での行動に関する情報を前の職場から確認するリファレンスチェックは、適切に実施すれば有効な手段です。ただし普及していない現実があります。

リファレンスチェックが普及しない理由
費用がかかることが最大の理由です。正社員採用ならまだしも、アルバイト・パート採用でリファレンスチェックを使ったら採用コストが膨大に膨らみ、採算が合いません。また、実施する場合は本人の同意が必要で、照会の目的を明示し、結果の管理も必要になります。日本版DBSでの犯罪事実確認以外のリファレンスチェックの実施や効果、妥当性は弁護士・社労士への確認をお勧めします。

③ 採用後の継続的なリスク管理

  • 倫理研修の定期実施(人権尊重・不適切指導の定義の周知)
  • 管理者による日常的な指導状況のチェック
  • 子どもの行動・表情の変化を見逃さない現場観察(小さな違和感を記録する)
  • 相談窓口の周知と通報者保護の徹底

まとめ:採用の難易度が上がった——だからこそ問い直すべきこと

日本版DBS制度の開始により、採用の難易度は確実に上がりました。手続きが増え、聞いていい質問・いけない質問の線引きが必要になり、採用フローの設計も複雑になっています。

でもこれは、「一緒に働く人とどういう関係を構築したいか」を問い直す機会でもあると思っています。

どのような人と働くのか、どんな現場にしたいのか、どのような組織を構築したいのかの選別眼と適切なプロセスの検討は、ますます事業継続の重要な要素となってきています。「子どもの安全を守る」という共通の価値観を持つ人材と一緒に働くために、採用の段階から何を伝え、何を確認し、どんな関係を作っていくか。そこまで含めて採用戦略として考えてほしいと思っています。

私自身、行政書士になる前に人事や人事コンサルの経験があります。採用がうまくいかない会社は、現場が疲弊しており、その理由の多くは「どんな人と働きたいか」という問いが曖昧なまま進んでいたように思います。

採用フローの設計・応募者への説明文書・誓約書の整備については、ぜひご相談ください。

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