派遣・ボランティア・副業講師の犯罪事実確認義務ー「直接雇用だけ確認すればいい」は大きな誤解【行政書士解説】

はじめに:「直接雇用だけ確認すればいい」という盲点

日本版DBS制度の説明をしていると、事業者の方からこんな声をよく聞きます。

「うちは直接雇用のスタッフだけ確認すればいいですよね?」 「派遣元が確認しているはずだから、派遣先のうちは手続き不要ですよね?」

どちらも誤りです。こども性暴力防止法による確認義務は、雇用契約の有無や雇用形態に関係なく、「子どもと接する業務をしているかどうか」だけで決まります。派遣社員、業務委託・フリーランス講師、ボランティア、副業・兼業スタッフ——すべてが確認の対象です。

そして確認義務を負うのは、派遣元でも委託元でもなく、子どもと接する現場を持つ認定事業者、つまり「派遣先」である自社です。ここは実務上、最も大きな盲点になっています。

誰が確認対象になるか:雇用形態別の一覧

この表を見て「想定より広い」と感じた方は多いはずです。特に派遣先が義務を負うという点と、他所で確認済みの副業・兼業講師も自社で改めて確認が必要という点は、制度を正確に知らないまま運用を始めると確実に穴になります。

確認が必要かどうかの判断基準:4つの条件

確認が必要かどうかは、以下の4条件すべてを満たすかどうかで判断します。

【注意】なお、ガイドラインには支配性・継続性・閉鎖性をもって定義されていますが、子どもとの接点の有無も重要な要素となっているため、本ブログでは、直接性を含めた4条件としております。

 「継続性」の解釈で最も誤解が多いポイント

継続性の「6ヶ月以上」はスタッフの勤務期間ではなく、事業そのものの設計を指します。たとえば3ヶ月に1回の単発キャンプでも、年間シリーズの一部であり同じ子どもがリピート参加できる設計ならば、そこに従事する単発スタッフも確認対象です。「単発・スポットだから対象外」という判断は危険です。

もう一つ懸念しているのは、「単発だから」「面倒だから」という理由で確認を省略してしまう事業者が出てくることです。しかし確認を省略した状態で子どもと接させた場合、認定取消のリスクは現実に存在します。「手間だから省略」では済まない制度です。

派遣・業務委託の実務:「他社任せ」の危険

派遣先が義務を負う理由

派遣元は派遣社員の雇用主ですが、こども性暴力防止法上の認定事業者でなければ確認手続き自体を行うことができません。子どもと接する現場を持ち、その安全に責任を持つのは派遣先である認定事業者です。「派遣元がやるはず」という発想は、制度の構造を誤解しています。

実務上の対策として、派遣契約書に確認協力義務を明文化することが不可欠です。具体的には以下を盛り込みます。

  • 確認拒否や特定性犯罪歴判明時の通知義務
  • 派遣元は、派遣社員に犯罪事実確認手続きへの協力を指示する義務を負うこと
  • 確認が完了するまでの間、子どもと接する業務に就かせないこと
  • 確認費用(戸籍電子証明書等の取得費用)の負担方法を明確にすること

他所流用のリスク:「コンプラがズブズブな組織ほど犯罪者を呼び込む」

「他の教室ですでに確認済みの副業講師だから、うちは手続き省略できるよね」—この発想は非常に理解できます。手間もコストも省けるし、相手が「大丈夫」と言っているんだから。

でも、この「油断」こそが制度の最大の穴になると私は思っています。

他所の確認結果を流用することの3つのリスク

  • 情報の鮮度リスク:他所が確認したのは1年前かもしれない。その後に性犯罪を犯した可能性はゼロではない
  • 個人情報保護法違反リスク:A社が取得した確認情報をB社に提供することは、本人同意のない目的外利用・漏洩にあたりうる
  • 認定取消リスク:「自ら確認を行う」義務を怠ったことが発覚すれば、それだけで認定取消の対象になる

そして最も危うい点はここです。確認を省略する・他社任せにする・「大丈夫だろう」で済ませる—こういったコンプライアンスが緩い組織は、性犯罪歴のある人材を呼び込みやすい環境を自ら作っているということです。悪意を持つ人間は、確認の甘い事業所を選ぶ可能性があります。「コンプラがズブズブなほど犯罪者を引き寄せるロジック」—この危機感を、特に外部人材を多く使う事業者には持ってほしいと思っています。

法人単位での確認という原則も重要です。同一法人の複数拠点であれば1回の確認で足りますが、フランチャイズ等で法人が異なる場合は、看板が同じでも別々に確認が必要です。

ボランティア・無報酬従事者:費用と現場への影響

ボランティアも確認対象、費用は事業者負担

ボランティア、インターン、保護者協力員なども、子どもと接する業務に従事する以上、確認の対象です。確認費用(戸籍電子証明書等の取得費用)は、無報酬のボランティアに自己負担させることは現実的ではなく、明確な規程はありませんが、無償で働くことを前提としたボランティアにおいては、通常は確認費用は認定事業者側が負担することになってくるでしょう。

この制度設計が生む現場への影響

率直に言うと、ボランティアに戸籍取得費用まで事業者が負担するとなると、「ボランティアを使わない方がいい」という判断をする事業者が出てきます。

その結果、必要な人員が揃わないまま事業が運営され、現場が疲弊するという問題が起きるかもしれません。制度の趣旨は子どもの安全確保にあるわけですが、運用の現実として「DBSが単なる面倒な制度」として機能してしまうリスクも私は感じています。

事業者がこの負担感をどう捉えるかは、認定を取るかどうかの経営判断にも関わってきます。費用・手間・人員確保の現実を見た上で、認定の是非を慎重に判断してほしいと思います。

ボランティア向け覚書の整備

活動開始前に覚書または合意書を作成し、以下を明記します。

  • 本活動は子ども関連業務であるため、DBS法に基づく特定性犯罪歴の確認を活動開始前に行うことへの同意
  • 確認に協力しない場合、子ども関連業務には従事できないことへの同意
  • 確認によって知った情報を子どもの安全確保の目的以外に利用しないこと
  • 確認を拒否した場合は子どもに接しない別業務(事務作業・物品整理等)への変更

「拒否した場合に無理に別業務に追いやると、ハラスメントリスクが生まれる」という点も押さえてください。丁寧な対応が求められます。

業務委託契約書に盛り込むべき条項

外部講師や兼業スタッフを受け入れる際、口約束ではなく契約でリスクをコントロールすることが不可欠です。業務委託契約書に盛り込むべき3点を整理します。

  1. DBS確認への協力義務
    契約の前提条件として、認定事業者が行う犯罪事実確認に応じることを明記。違反を契約解除事由として定める
  2. 特定性犯罪歴判明時の報告義務
    確認後に新たな犯罪事実が発生した場合、速やかに報告する義務を明記
  3. 他所での確認結果の不流用
    他社での確認結果を本契約の義務の代替として使用しないことを明確にする

「重複確認は誠実さの証」という考え方

同じ講師に対して複数の事業所がそれぞれ確認をかけることは二度手間に見えます。でも私は「どの事業所も妥協なく安全を管理している」という証明だと思っています。外部人材を活用するからこそ、確認フローの「自前化」が信頼を守る。そう割り切ってほしいです。

まとめ:確認義務をどういう価値観で対処するか

この記事を通じて伝えたかったのは、「誰が対象か」という範囲の話だけではありません。

認定制度はあくまで「任意」です。認定を取る・取らないという選択ができるからこそ、自分たちの事業規模・外部人材の活用状況・費用負担の現実を整理した上で判断することが重要です。

「確認義務を果たす」という行為を、単なるコンプライアンスとして捉えるのではなく、子どもの安全を守るための価値観として組織に根付かせることができるかどうか。それが、形式だけの認定取得との一番大きな差だと思っています。

また、DBS制度だけが安全確保の手段ではありません。リファレンスチェック(身元照会)など、DBSによらない確認方法も存在します。「DBSで対応しきれない部分をどう補うか」も含めて、自社に合った安全確保の体制を設計することが本当の意味での実務対応です。

論点整理や実務設計のお手伝いは、行政書士の仕事の中で最もやりがいを感じる部分でもあります。外部人材の活用形態が複雑な事業者ほど、ぜひ一度ご相談ください。

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