犯罪事実確認で確認される「特定性犯罪」の範囲と照会期間
目次
はじめに:「何が確認されるのか」と「誰が対象なのか」
「日本版DBS法」(こども性暴力防止法)の施行に向け、前回までに、DBSの認定制度の適用対象となり得る、性暴力が発生しやすい特性を持つ事業かどうか(継続性・閉鎖性・支配性)の線引きについて解説しました。
「犯罪歴を確認するといっても、どこまで調べられるんですか?」「18歳になったら対象外ですよね?」—日本版DBS制度について説明する場面で、この2つの質問は必ずといっていいほど出てきます。
どちらも、制度を正確に理解していないと誤解が生まれやすい論点です。前者は従業員側の不安、後者は事業者側の判断ミスにつながります。そして後者については、悪意を持つ側が「成人だから適用されない」という論理で逃げようとするリスクも現実にあります。
本記事では「何が確認されるのか(特定性犯罪の範囲・照会期間)」と「誰が保護対象なのか(児童等の定義と18歳の線引き)」を合わせて整理します。
確認対象は「特定性犯罪」のみ
なぜ性犯罪だけが対象なのか
日本版DBS制度の目的は「子ども関連業務から性犯罪歴のある者を排除し、子どもの安全を守る」ことです。広範な犯罪歴を確認するのではなく、再犯リスクが特に高いとされる性的な暴力・わいせつ行為に直結する犯罪類型に絞っています。
つまり、横領・詐欺・暴行・傷害など、性的な性質を持たない犯罪は一切対象外です。過去に交通違反や傷害事件があっても、DBS制度では確認されません。このことを従業員にきちんと伝えることが、不要な不安を解消する第一歩です。
特定性犯罪の具体的な種類
特定性犯罪に該当するのは、主に以下の刑法に規定される犯罪です。

これらの犯罪は、刑法犯の中でも特に重大な性犯罪、または子どもへの影響が大きいと認められる行為に限定されています。この限定性が、日本版DBS制度にて確認できる犯罪歴における最も重要なポイントです。
照会期間のルール:拘禁刑20年・罰金10年
特定性犯罪に該当した場合でも、犯罪歴が永遠に確認され続けるわけではありません。刑罰の種類によって照会期間が厳格に定められています。

この期間のルールは「刑の消滅」とは別に、日本版DBS制度のために独自に設けられたものです。
実務上のポイント
事業者が知ることができるのは「特定性犯罪歴の有無」と、ある場合は「刑罰の種類(拘禁刑か罰金か)」「裁判確定日」のみです。具体的な犯罪名や発生時期・詳細は一切通知されません。
プライバシー保護の仕組みと情報管理の責任
確認手続きの入口:戸籍情報と本人同意
確認手続きを進めるには、本籍地の情報が不可欠です。事業者は従業員に「戸籍電子証明書提供用識別符号」などの提出を依頼します。
重要なのは、従業員の同意なしには手続きを一切進められないという点です。同意取得のプロセスを誠実に行い、情報の目的・管理方法を事前に明示することが、従業員との信頼関係を保つ基本です。
情報管理を怠ると何が起きるか
事業者はこのプロセスで極めてセンシティブな個人情報を預かります。管理を徹底しない場合のリスクは以下の通りです。
- 認定の取り消し:不適切な情報管理が判明した場合、国から認定が取り消されます
- 行政監査・是正命令:こども家庭庁等による監査を受け、体制不備があれば是正指導・罰則が科される可能性があります
- 刑事罰・損害賠償:個人情報保護法に基づく刑事罰、および従業員からの高額な損害賠償請求リスクがあります
認定を取得することのメリットだけでなく、情報管理義務という責任も同時に引き受けるという認識が不可欠です。
「児童等」の定義:18歳の線引きは誕生日ではなく「在学」
「こども性暴力防止法の対象は18歳未満ですよね?」という問いへの答えは、実は「それだけでは正確ではありません」です。
ガイドラインの明記
「高等学校等に在学する18歳以上の者を含む」と明示されています。つまり、18歳かどうかは誕生日ではなく「在学しているかどうか」で決まります。
在学ベースが生む実務上の問題
この「在学ベース」という考え方は、現場で相当な混乱を生みます。
- 同じ高3クラスに誕生日が早い18歳と、まだ17歳の生徒が混在する。でも在学中であれば全員対象なので、誕生日で区別する必要はない
- 高校を卒業後に同じ塾に通い続けている19歳は、在学していないため原則対象外。でも事業者側は「去年まで高校生だった子」として同じ扱いをしがち
- 放課後等デイサービスで高校3年生が18歳のまま3月31日まで在籍している場合、3月31日まで対象、4月1日以降は原則対象外という実務上の線引きが発生する
悪意ある側への対策として
「18歳成人だから性暴力の対象外だ」という詭弁を封じるためにも、「在学ベース」という理解を事業者・従業員双方が持っておくことが重要です。
「児童等」に該当するかの判断早見表

民法の「成人」とこども性暴力防止法の「保護対象」はなぜ違うのか
令和4年の民法改正により成年年齢は18歳に引き下げられました。「成人なのになぜこども性暴力防止法の対象なのか」という疑問を持つ方は少なくありません。
答えはシンプルです。「成人かどうか」と「性暴力から保護されるべきか」は別の問題です。民法の成年年齢は「契約能力・親権からの独立」といった民事上の能力を定めるものです。こども性暴力防止法が18歳未満(在学中は以上も含む)を保護対象とするのは、発達段階・力関係の非対称性・心理的影響の大きさを踏まえた判断であり、こどもの権利条約(第1条)の「18歳未満を児童と定義」という国際規範とも整合しています。
年齢混在施設での実務対応
塾・スポーツクラブ・放課後等デイサービス等では、18歳未満と18歳以上が同じ施設を利用するケースがあります。
学年単位と年齢単位のギャップ問題
学年で同じクラスに属している場合、誕生日によって18歳前後が混在します。この場合、在学中であれば全員が「児童等」として扱われるため、誕生日ごとに個別対応を変える必要はありません。学年単位でクラスをまとめて対象とする運用が現実的です。
ただし問題になるのは「卒業・転籍・退学」のタイミングです。在学状態が変わった時点で対象範囲が変わるため、利用者の在学状況の確認と記録を定期的に行う体制が必要です。
確認フローの標準化
- 施設の「主たる対象者」の年齢構成を確認し、DBS義務対象施設かどうかを判断(必要に応じて指定権者に確認)
- 義務対象施設であれば、18歳以上が含まれる場合でも在学中の者はすべて確認対象として扱う
- 利用者の在学状態が変化した場合(卒業・退学・転籍等)は施設の性格の変化として再度指定権者に確認する
- 確認の結果・判断の経緯は記録に残し、運営指導の際に説明できる状態にしておく
「学年で一括対応するか、個人の誕生日で管理するか」という問いには、学年ベースの一括管理が実務上の現実解です。ただし在学状態の変化への追随だけは厳密に対応することが求められます。
おわりに:子どもへの想いが、安全対策の質を決める
この日本版DBSの記事シリーズを通じて、ずっと頭にあったことがあります。
子どもが性暴力にあったとき、失われるのは安全だけではありません。自分自身への信頼、大人への信頼、そして世界そのものへの信頼が揺らいでしまう。そのことが、ずっと気になっていました。
子どもには、思ったことを思ったまま言える人間になってほしいと願っています。素直に物事を捉えて、発言して、行動して、チャレンジして、経験を積んで大人になっていく。そのプロセスに必要なのは「安心できる場所」です。安心できる環境で育った経験が、将来の人間関係の基礎になります。
素直に気持ちを言えることは、相手に受け取りやすい「NO」を言える力にもつながります。ありのままの自分と、課題と、理想を区別しながら、適切な判断力を持った大人になっていく。日本版DBS制度の安全確保措置は、そのための土台づくりだと私は思っています。
制度への対応を「義務だからやる」で終わらせてほしくない。子どもへの想いが、安全対策の質を決める。そう信じています。
このシリーズが、皆さまの事業所での安全な環境づくりの一助になれば幸いです。DBS法に関する個別のご相談は、4-LeafClover行政書士事務所までお気軽にお問い合わせください。
