人が辞めない事業所と数値・タスク管理|障害福祉の体制づくり|4-LeafClover

はじめに

どれだけ良い仕組みを作っても、それを回すのは人です。
その人が定着しなければ、仕組みは絵に描いた餅になります。

今回は、障害福祉の事業所を対象にした人材に関する調査をもとに、人材定着の実態をお話しします。

障害福祉の人は、なぜ辞めるのか

参照するのは、厚生労働科学研究として行われた全国調査です。生活介護・就労継続支援B型・共同生活援助のいずれかを運営する法人を無作為に抽出し、退職した職員341人分の実態を集めたもので、まさに障害福祉の現場でのデータです。

参照データ
山口創生ほか「障害福祉サービス人材の確保に向けた実態調査:障害福祉事業を運営する法人を対象としたオンライン調査」

このデータの退職理由として多かったのは、次の二つでした。

  • 転職・進学 約20〜22%
  • 職場内の人間関係 約14〜20%

人間関係が2番目に多いことは、多くの方の実感どおりだと思います。問題は、その次です。

給与は、「辞める理由」にはなっていない

同じ調査で、収入条件を理由に退職した人は、わずか1〜6%程度にとどまりました。研究者も、給与を含めた待遇面を理由に退職した者は少なかった、と結論づけています。

「人が辞めるのは給料が安いからだ」という考えに囚われていると、打ち手を間違えます。賃金を上げること自体は大切ですが、それだけでは、辞める人は止まりません。

ただし、だからといって給料は低くても良いとは断言できません。
今回お示しした研究では、研修者自身が、以下のような留保をつけています。
・退職した人はもともと高い給与を期待していなかった可能性があること、
・そして給与や待遇の悪さは「その業界を選ばない理由」になり得ること。

つまり、給与は、辞める理由ではなく、そもそも入ってこない理由なのかもしれないという可能性を示しています。採用の入口の問題と、定着の問題は、分けて考える必要があります。

辞めた人は、どこへ行ったか

経営者にとって、いちばん重い事実がこれです。退職した人の転職先を見ると、障害福祉系の業界へ移った人が3〜4割を占めていました。

つまり、辞めた人の多くは、障害福祉の仕事が嫌になったわけではないことが分かります。障害福祉を続けながら、その事業所を離れることを選んだのです。業界が選ばれなかったのではなく、「自分の事業所が選ばれなかった。」という厳しい現実に目を背けずに対策を検討していただきたいと思います。

都市部ほど、短期間で辞めていく

この調査では、人口10万人以上の地域(中大規模都市)の法人ほど、以下の特徴がみられました。

  • 営利法人が多い
  • 非正規雇用が多い
  • 職員が若い
  • 勤続年数が短い

そして、退職者のうち勤務3年未満の人が6割を超えていました。

  • 1年未満31.2%
  • 1年以上3年未満35.3%

周りに他の事業所も他の産業もある都市部では、人は動きやすいのは、どの産業においても同じような傾向が見受けられます。障害福祉分野においても、都市部で開業するなら、「職員が若い人は転職しやすい」という前提で体制を考える必要があります。

「即戦力の有資格者」は、待っていても来ない

スキルに関しても、この調査から見えてきます。新しく入ってきた職員のうち、新卒はおよそ1割。残る9割は転職者で、前職が福祉・医療以外の企業だった人が約25%を占めます。そして、国家資格を持たない人が半数から6割。求人の入口として多いのは、ハローワークなどの公的機関と、知人の紹介・スカウトでした。

資格を持たない人が6割という現実を踏まえるなら、有資格の即戦力を待ち続ける採用計画は、そもそも成り立ちません。未経験・無資格の方に入っていただき、育てていく前提で体制を組むほうが現実的です。そして、知人の紹介で転職する方がいることに目を向けると、日ごろのネットワークから紹介・入社につながることも多くなっています。人材採用手段は、求人広告だけではないと捉え、SNSやイベントなど不特定かつ多くの人との接点を持てる手段はないか、考えてみましょう。

辞めない事業所には、何があるか

では、「人が定着する事業所には何があるのか」。
私は、労働条件と働きがいが、その人の中でマッチしているかどうかだと考えています。

具体的には、評価を通じて、成長が実感でき、それがきちんとお金にもつながる状態です。
頑張りが見られている、見られたうえで成長として返ってくる、そして待遇にも反映される、といった流れがつながっていると、働くことに充足感を得られ人は残ります。

ただし、価値観は多様化していますので、1つのルールや基準にまとめられない難しさもあります。全員が出世を目指しているわけではありませんし、キャリアアップだけが働きがいではない人もいるでしょう。
大切なのは、その人のライフスタイルや価値観に合っているかどうかです。
人によって違う価値観という軸に、どこまで合わせられる幅を持てるか、画一的な「良い職場」を目指すより、そのほうが定着につながるでしょう。

そして評価の方法ですが、小さな事業所で大企業のような人事制度は作り、運用することは難しいでしょう。そうなると、小回りが利いて現実的なのが、面談という仕組みの活用です。細かな目標設定まで作り込むのは難しくても、面談を通じてキャリアの方向や価値観に基づく仕事の仕方を一緒に描くことはできます。まずは、個々の従業員の気持ちや考えを理解することに専念しましょう。

まず見るべき数字 ― 収支は取れているか。組織と給与を支払える基盤はあるのか

体制づくりができても、売上や収支が黒字になっていなければ意味がありません。最初に見るべき数字はシンプルです。「収支が取れているか」です

障害福祉の報酬は、実際の入金がサービス提供月の約2か月後です。事業を始めて2か月ほど経って、はじめて本当のお金が入ってくる。指定申請時に収支計算書を作成しますが、その計画とどの程度乖離があったのかを気にすることは重要です。開業前に立てた計画のどこかが、現実と食い違っているならば早急に見直してください。時間が経つほど、傷は深くなります。

そのうえで、少なくとも、3か月に一度、あるいは半期に一度は、予実分析(計画と実績の差を確認する作業)を回すことをおすすめします。稼働の状況、加算の取得状況、人件費のバランス。立てた計画と現実のズレを定期的に見て、原因を潰していく。この地道な繰り返しが、事業所の体力になり、組織や人員を確保する基盤となります。

評価と処遇改善加算を、しっかりと連動させる

その後が、人事と経営が交差していくこととなります。
評価をしっかり行い、会社に貢献している人に、処遇改善加算で得た資金をもとに給料を補填していく、この連動が、体制づくりの要になります。
処遇改善加算における要件は、加算として受け取った額以上を賃金改善に充てることです。だからこそ、どう配分するかには事業所の裁量があり、そこに評価の設計が効いてきます。
ただ漫然と人件費として分配するのではなく、いつ、誰に、どのように配分するのかをまずは言語化し、それを実行することが処遇改善加算の最も効果的な使い方となります。

また、処遇改善に関する加算は人件費を支えるためのものです。有資格者の配置を評価する加算であれば、資格取得の支援といった人事の打ち手とそのまま噛み合います。
支援の質と加算の両方につながるよう、処遇改善加算を「もらえるお金」ではなく「人材戦略とセットで設計するもの」として捉えると、この補助金の使い方と見え方が変わります。

また、給与アップだけでなく職場環境にも目を向けることを忘れてはなりません。具体的には、職場環境改善や業務の生産性向上に関する取り組みも重要です。近年の報酬改定では、こうした職場環境の整備や生産性向上の取り組みが、加算の要件として組み込まれる方向にあります。要件は改定で変わりますので、最新の告示を必ずご確認ください。

東京都府中市・4-LeafClover行政書士事務所の見解

運営の責任者は、経営者です。
「担当者に任せきりにして、責任を取らない」「取り組みの成果も担当にお任せにしてしまう」といった状況では、組織運営はうまくいきません。
人が辞めていくとき、その理由の多くは人間関係や職務と責任のバランスにあり、そして辞めた人の三割から四割は、障害福祉の別の事業所へ移っています。仕事が嫌になったのではなく、その事業所を離れることを選んだ、ということです。ここから目を背けないでいただきたいのです。
夢や希望といった理想だけでは成り立たない現実が、この事業にはあります。だからこそ、経営のことだけでなく、現場の声や実態を知る時間を、意識して確保してください。
また、数字は現場から生まれます。各種加算は職員の働きや貢献から生まれます。その現場を知らないまま数字だけを見て、スタッフと接しても、人材は育ちません。人材が育たなければ組織は脆弱なままです。
経営者の忙しさの中でいちばん後回しにされるのが、この「現場を知る時間」です。けれど、ここを削らない事業所が、結局はいちばん強い体制を持つのだと考えています。


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