日本版DBS現職者の同意取得・拒否対応の完全ガイド~現職者対応・配置転換・不利益処分リスクを行政書士が解説

はじめに:「拒否されたらどうする?」という不安に答える

日本版DBS制度の実務相談の中で、確率としては高くないものの、「同意を拒否されたらどうすればいいか」という不安を持つ事業者は少なくありません。実際には拒否にまで至らなくても、「なぜ調べられるのか」という強い懸念を示すスタッフは出てくる可能性があります。

そういった不安を感じているスタッフや事業者が、正確な情報にたどり着けるようにしておくことが、この記事の目的の一つです。

本記事では「拒否されたらどうするか」だけでなく、拒否に至る前の同意取得の正しい方法、現職者への経過措置対応、犯罪事実が判明した場合の人事対応まで、一連の実務フローを整理します。

第1章 現職者対応:経過措置期間を「戦略的に」使う

新規採用者への犯罪事実確認は採用プロセスに組み込めば比較的スムーズに進みます。難しいのは、制度施行時点で既に雇用している現職者への対応です。

現職者への確認期限は、義務事業者と認定事業者で異なります。義務事業者(学校・認可保育所等)は法施行から3年以内、認定事業者(学習塾・放課後児童クラブ等)は認定取得から1年以内に、現職者全員の確認を完了させる必要があります。

ただし義務事業者の場合、「3年以内ならいつでも良い」というわけではありません。こども家庭庁がシステムの負荷分散のため、都道府県や施設ごとに申請時期を割り当てる仕組みがあり、自分の事業所がいつ確認を行うべきかは、その割り当てられた期間に従う必要があります。「3年も猶予がある」と油断していると、犯罪事実確認を決められた期間に実施できないリスクが発生します。自社の対象期間がいつになるか、常に確認しておくことが重要です。

また、認定事業者の1年という期間は決して長くありません。この期間は「単なる猶予」ではなく、以下を並行して進める戦略期間です。

  1. 就業規則のDBS対応改定(確認義務・拒否時の人事措置規定の追加)
  2. 対象従業員の選定とスケジュール策定
  3. 従業員への制度説明会の実施と同意取得
  4. 申請開始・確認完了

就業規則の改定が完了していない状態で同意取得を始めると、拒否された場合の人事措置に法的根拠がなくなります。順序が重要です。

第2章 同意取得の法的要件:「任意性」と「明確性」

義務でも、強要は許されない

義務化対象の事業者にとって「やるしかない」制度であっても、「同意しなければ解雇する」という強迫的な言動はパワハラ・不当解雇のリスクを生みます。こども性暴力防止法は従業員への「不利益な取り扱い」を明確に禁止しています。

これは矛盾しているように見えます。やるしかないのに、強制もできない。この構造から逃れる唯一の方法は、「法的義務として説明し、丁寧に理解を求める」というプロセスを踏むことです。

認定事業者の場合
認定事業者である会社では同意を求める法的根拠がそもそも弱くなります。「どうしても同意できない」というスタッフにとっては、認定を取得していない事業所への転職が現実的な選択肢になります。認定の取得が任意である以上、認定を取るかどうかの経営判断と、それに伴う人員構成の変化も含めて考えておく必要があります。

同意取得で事前に説明すべき3点

  1. 確認の目的と利用範囲の限定
    「特定性犯罪歴の確認のみ。他の目的には一切使わない」ことを明示する
  2. 拒否した場合の具体的な影響
    「解雇」ではなく「子ども関連業務に就けなくなる可能性がある」という形で伝える
  3. 犯罪事実「あり」判定時の対応フロー
    即時解雇ではなく、配置転換を検討するフローがあることを先に説明し、過度な不安を取り除く

第3章 同意取得を「対話の機会」にする

同意取得を、単なる書類手続きとして捉えないでほしいと思っています。

犯罪事実確認への協力を求める場面は、子どもの安全という崇高な使命が自分たちの業務に組み込まれるということを、改めてスタッフ全員で確認する機会でもあります。かわいそうな子どもを一人でもなくす、という大人の役割を、教育・保育に関わるすべての人が担っている。そのことをこの手続きを通じて伝えることができます。

同意を求める前に、一言
「この手続きは義務として行いますが、それ以上に、あなたがどんな教育をしたいのか、子どもたちにどんな大人になってほしいと思っているのか、そういう話を聞かせてほしいと思っています。その想いが、この制度の本質と重なっているから。」

相手の教育観を聞き、尊敬し合う機会としてこの面談を位置づけることができれば、同意取得は義務の遂行ではなく、組織のビジョンを共有するプロセスになります。

義務だからやる、では職場の空気が重くなります。「なぜ私たちはこれをするのか」を一人ひとりと確認し合う場にすることが、長期的に見て最も効果的な同意取得の方法だと思っています。

第4章 同意文書に盛り込むべき事項

口頭での同意はトラブルの元です。必ず書面(または電磁的記録)で同意を得て、双方が保管してください。以下は同意文書の必須・推奨事項一覧です。

同意文書の必須・推奨事項一覧

同意書の記載例(参考)

「私は、貴社がこども対象性暴力防止法に基づき、私の特定性犯罪歴を確認することに同意します。確認の結果または同意しないことにより、子どもと直接接する業務に従事できない場合があることを理解しました。特定性犯罪事実該当者であることが明らかになった場合には、対象業務に従事できないことをあらかじめ理解し、必要に応じて労働条件を含めた個別的協議をすることに同意します。」

ただしこの記載例はあくまで参考です。就業規則の内容・雇用形態・事業規模によって最適な文言は異なります。社労士または弁護士との連携の上で作成することを強く推奨します。

第5章 拒否・犯罪歴判明時の対応フロー

拒否や犯罪歴判明のケースは確率としては低いですが、ゼロではありません。事前に対応フローを整備しておくことが、実際に起きたときの混乱を防ぎます。予想される出来事とともに、どのような選択肢があるのか、予め整理しておきましょう。

例)犯罪事実確認において起きるリスクと選択肢の整理の仕方

配置転換先がない場合—小規模事業者の現実

スタッフが3〜5人程度の小規模な塾や福祉事業所では、「バックオフィス業務への転換」という選択肢がそもそも存在しない場合があります。

この場合の現実的な対応は、弁護士・社労士との協議を経た上での退職に向けた検討です。「解雇」と「退職」は法的に大きく異なります。一方的な解雇は不当解雇リスクを伴いますが、丁寧な協議を経た合意退職は別の話です。

小規模事業者が陥りやすい誤り
「配置転換先がないから解雇するしかない」という判断を、専門家に相談せず事業者単独で行うことが最大のリスクです。このような場合は必ず社労士・弁護士に相談してください。行政書士として申請・規程整備はサポートできますが、解雇・退職交渉は労働法の専門家の領域です。

「不利益な取り扱い」に当たらないための配慮

 配置転換後に賃金を大幅に下げたり、実質的な閑職に追い込むことは「不利益な取り扱い」とみなされるリスクがあります。業務内容は変わっても、不当な待遇悪化を伴わない配置転換であることが重要です。

「特定業務に就かせない」こと自体は法に定める義務を果たすための正当な行為です。ただし、それを越えた嫌がらせ的な扱いは許されません。

まとめ:この手続きを、事業所のあり方を問い直す機会に

日本版DBS制度への対応を、単なるコンプライアンス手続きとして消化してほしくないと思っています。

同意取得のプロセスを通じて、「うちはどんな教育をしたいのか」「子どもや社会に何を提供したいのか」——そういうビジョン・ミッション・バリューを改めて問い直すことができます。この制度を機に、事業所のあり方とやり方を組織全体で議論する。それが、形だけの認定取得との一番大きな差だと思っています。

義務対応でもかまわない。でも、せっかくやるなら、子どもたちへの想いと組織のあり方を重ねる機会にしてほしい。その伴走をするのが、私たちの仕事です。

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